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牛肉パニック、「全頭検査」は無意味だった!

証言 BSE問題の真実

 2001年9月10日、千葉県で食肉処理された牛が「狂牛病」だったと判明、日本は牛肉パニックに陥った。その結果、「安全、安心のため」として実施されたのが、科学的に意味のない若年牛も含めた全頭検査だった。

 編者は元東大教授で、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長。当時の政府関係者、政治家、専門家、消費者団体、メディアなど約100人の関係者から証言を集めて本書『証言 BSE問題の真実』(さきたま出版会)にまとめた。自身は全頭検査に批判的な立場だが、賛成派の意見や論理もきちんと紹介してあり、BSEに限らず、食のリスク管理やリスクコミュニケーションを考える上での貴重な証言集となっている。

農水省の権威失墜が背景

 狂牛病は聞こえが悪いというので、日本の牛で発生した後は、BSE(Bovine Spongiform Encephalopathy=牛海綿状脳症)と改名された。BSEは異常なプリオンによって脳が壊される病気だ。そっくりな病気が人にもある。クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)だ。高齢者の病気で、発症年齢は平均68歳前後、治療法はなく、発症から1年ほどで死に至る。日本では年に100~200人の患者がいる。

 BSEが恐ろしいのは、感染牛の脳やせき髄(特定危険部位)を食べた人に感染し、年齢にかかわらず変異型CJDを発症するからだ。BSE発祥の地とみられる英国では、1993年に15歳の患者が見つかったのを皮切りに、若者の患者が相次いだことから、96年に政府が公式に「BSEが人に感染して変異型CJDを起す可能性がある」ことを認めた。

 20世紀末には英国からヨーロッパ各地の牛に広がり、「日本も危険だ」として欧州委員会が進めていた日本のリスク評価に対し、2001年6月、農林水産省は評価作業の中止を要請した。千葉県でBSE牛が見つかったのはその3か月後だった。農水省の権威も信用も失墜した中、家畜の専門家の意見を覆してパニック対策として飛び出したのが全頭検査だった。

直接経費だけで300億円超

 しかし、この検査は若い牛には全く意味のないものだった。なぜか。

 BSEを起す病原性のプリオンというたんぱく質を食べると、まず腸で増え、それが脳に移って月齢を重ねるごと蓄積していく。感染牛の脳で異常プリオンが検出できる量に達するのは平均50か月齢だった。一方、当時は牛の月齢の登録制度がなかったが、第2臼歯が生えるのが大体30か月齢であることを利用すれば月齢を推定することができる。英国その他が、30か月齢以上を検査対象としたのは、こうした理由からだった。いいかえれば、それより若い牛を検査しても、感染牛がいたとしてもプリオン量は検出限界以下なので、チェックすることは不可能だったのだ。

 当時の農水省の専門家、厚労大臣などはそれを知っていながら、畜産業者や消費者団体を説得できず、全頭検査に突き進んだ。政府は「全頭検査をしているから、BSEについて、日本は世界一安全安心の国」と国民にいい、欧米の専門家の失笑をかった。

 全頭検査は、2001年10月に始まり13年6月まで続いた。その間の費用は、検査の直接経費だけで300億円超。検査には大勢の獣医師が駆り出された。専門家である獣医師たちは、自分たちのしている仕事の虚しさを、どのようにとらえていたのだろうか。

 本書によれば、今でも「全頭検査は消費者の安心のためには必要だった」との意見がある。しかし、編者は、「それは『大きなパニックを抑えるためなら、国民を誤解させてもいい』という前例を作ったことになる」と指摘している。

  • 書名 証言 BSE問題の真実
  • サブタイトル全頭検査は偽りの安全対策だった!
  • 監修・編集・著者名唐木英明 編
  • 出版社名さきたま出版会
  • 出版年月日2018年12月 3日
  • 定価本体2700円+税
  • 判型・ページ数A5判・376ページ
  • ISBN9784878914645

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