読むべき本、見逃していない?

萩原健一が「太陽にほえろ!」を降りた本当の理由

  • 書名 昭和ドラマ史 1940-1984年
  • サブタイトルテレビドラマが見つめた日本人の夢と現
  • 監修・編集・著者名こうたきてつや 著
  • 出版社名映人社
  • 出版年月日2019年2月15日
  • 定価本体2500円+税
  • 判型・ページ数四六判・357ページ
  • ISBN9784871002394
BOOKウォッチ編集部コメント

 本書『昭和ドラマ史 1940-1984年』(映人社)というタイトルを見て、最初は「なぜ昭和なのか?」と思った。平成も終わるというのに、どうせなら『日本テレビドラマ史』でいいのではないか、と。

 読んでみて、その大変さに気がついた。著者のこうたきてつや(上滝徹也)さんは、日本大学名誉教授(テレビ文化史)の評論家。ギャラクシー賞選奨事業委員長、文化庁芸術祭審査委員などをつとめるテレビ評論界の大物。この一冊のために過去のドラマを見直し、脚本や放送台本を読み、文献・資料に当たり、制作者の証言を得るという地道な作業を通して書かれた労作だ。

 日本初のドラマは1940年、NHKの実験放送時代の「夕餉前」というドラマだそうだ。映像はなく、放送台本が放送博物館に保存されているだけだ。12分ほどの短いドラマだが、家族の団欒と食がテーマ。こうたきさんは「日本のテレビドラマの本質を初めから具現していた」と書いている。

食卓シーンが多かったホームドラマ

 戦後1953年に日本のテレビ放送は始まる。草創期(1953-59)のホームドラマは「飯食いドラマ」と言われるほど、食卓シーンが多かったそうだ。食へのこだわりは飢えから脱した人々の幸福を象徴していた。

 外国テレビ映画に触発され、「日真名氏飛び出す」(55)などがつくられ、「月光仮面」(58-59)など国産のテレビ映画も開発される。

 

 50年代後半になると、テレビドラマの独自性や芸術性を求める創作は、「東芝日曜劇場」などの単発ドラマ枠で放送されるようになる。58年のサンヨーテレビ劇場「私は貝になりたい」(演出・岡本愛彦、脚本・橋本忍)は、BC級戦犯を主人公(フランキー堺)にした反戦ドラマ。芸術祭賞を受賞、「電気紙芝居」と呼ばれていたテレビのイメージをくつがえす画期的な作品となった。

 この後、「開発期」(1960-69)には、連続ドラマが次々に開発される。NHKの連続テレビ小説(朝ドラ)、民放の昼のメロドラマ、NHK大河ドラマの創設、「三匹の侍」(演出・五社英雄)が開拓した時代劇の革新などをエポックに挙げている。

 つづく「拡充期」(1970年以降、5年刻み)は、脚本家の時代だった、と総括している。ここでは膨大な作品が取り上げられている。一つひとつ書いてもきりがないので、このほど(2019年3月26日)亡くなった俳優、萩原健一(ショーケン)が登場した二つのドラマに著者が焦点を当てた部分を紹介しよう。

伝説のドラマ「傷だらけの天使」

 「青春ドラマの変貌~七〇年代の挫折と絶望~」という項目。日本テレビの刑事ドラマ「太陽にほえろ!」(72-86)に萩原は第1シリーズの「マカロニ刑事」という新米刑事役で登場したが、通り魔に刺殺されるという形で姿を消した。職務中ではなかったので厳密には殉職でなかったが、後を継いだ松田優作はじめ若手刑事は殉職するというパターンのもとになった。

 降板は「マカロニ刑事」のイメージを払しょくしたい本人の希望もあったが、一番は「セックスシーンを禁じていたためだ」そうだ。そこでプロデューサーが用意したのが深夜枠の「傷だらけの天使」(74-75)ということになる。セックス、暴力、何でもありの凄惨な青春ドラマで、いまなお、評価が高い作品だ。萩原は悪徳興信所の調査員役。ちょっとチンピラ風だ。脚本の市川森一、柴英三郎、鎌田敏夫、監督の深作欣二、恩地日出夫、工藤栄一、神代辰巳とそうそうたる面々がかかわっていた。

 4月9日未明、日本テレビは萩原を追悼し、第1話と最終話を再放送したのを評者はたまたま見た。ドロドロの昭和のドラマだった。萩原が全身から「不良性」と人なつこさを発散していた。萩原を「アニキ」と慕う役の水谷豊が刑事役で活躍する平成。第1話で重要な役どころの子役を演じた坂上忍がMCとしてバラエティーを仕切る平成。そんな平成の最後を見送るように萩原は逝った。

 本書は昭和時代、1984年までが射程だ。最後は「スチュワーデス物語」などを取り上げている。どのドラマも画面が見えてくるような描き方をしている。だから評論ではあるが、ドラマのかつてのファンからすると懐かしいし、どれも楽しい。

 冒頭に出てくる「夕餉前」を日大芸術学部放送学科の実習で、台本をもとに制作したというから著者とテレビドラマとの関係は長く深い。あとがきで平成時代のドラマは目に見えない、やっかいな空気、つまり喪失感、閉塞感を相手に生きなければならなくなった、と書いている。いずれ著者による『平成ドラマ史』も書かれることだろう。

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