読むべき本、見逃していない?

フジと日テレがバトルした平成のテレビ

  • 書名 テレビが映し出した平成という時代
  • 監修・編集・著者名川本裕司 著
  • 出版社名ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 出版年月日2019年2月22日
  • 定価本体1100円+税
  • 判型・ページ数新書判・239ページ
  • ISBN9784799324295
BOOKウォッチ編集部コメント

 あと2週間余りで「平成」が終わる。だからという訳なのか、このところ「平成」や「昭和」を冠した本がやたらと送られてくる。「平成」ならわかるが、「昭和」も「令和」になれば影がさらに薄くなってしまうから、「今のうちに」ということなのか。

 先週『昭和ドラマ史 1940-1984年』(映人社)を本欄で取り上げ、昭和のテレビドラマは濃かったという印象を持った。平成のテレビはどうか? と思っていた矢先に本書『テレビが映し出した平成という時代』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)が届いた。元号が変わらぬうちに、駆け込みで紹介しよう。

 著者の川本裕司さんは、朝日新聞で長く放送、メディアを担当してきた社会部記者。先日、川本さんの『変容するNHK――「忖度」とモラル崩壊の現場』(花伝社発行、共栄書房発売)を紹介したばかりだ。今回は民放の番組を中心に「平成」という時代を浮き彫りにしようという趣向だ。多くの当事者の証言をもとにした興味深い「平成テレビ史」となっている。

 昭和から平成に移る1980年代末、最も勢いのあったフジテレビが、平成が終わろうとするいま、最も苦しんでいる。フジテレビ論から著者は書き出している。

 フジテレビは1982年から93年まで12年間連続して視聴率三冠王を達成、絶対的な強さを誇った。94年、日本テレビに三冠王を奪われるが、2004年には11年ぶりに三冠王に返り咲いた。しかし、2010年を最後に三冠王からすべり落ち、16年には4位に転落し、その後も順位を上げることはできないでいる。現場が自由奔放さを失い、「普通のテレビ局」となってしまったのが不振の原因ではないか、と指摘する。そこから個々の番組の担当者の声をまじえ、時代の変遷を分析している。

脚本家の時代からプロデューサーの時代へ

 まず、フジテレビと言えば、「トレンディ―ドラマ」「月9」ということばを抜きに語れないだろう。昭和は大物脚本家が輝いた時代だった。NHKとTBSの後塵を拝していたフジテレビは大物脚本家に振り向いてもらえないため、プロデューサー主導で若手脚本家を起用したという。いまはベテランとなった脚本家・坂元裕二(51)は、フジテレビ主催の「ヤングシナリオ大賞」を受賞した当時は奈良県に住む19歳。プロデューサーが東京に呼び寄せ、自宅近くでアパート住まいをさせ、アシスタントディレクター(AD)にしてドラマを勉強させたという逸話を紹介している。

 プロデューサーが脚本家に注文をつけ、バブル期の外向き志向の生き方を描いたのがトレンディ―ドラマだったと分析している。「東京ラブストーリー」がその代表作。しかしバブル絶頂期には視聴者の好みは純愛路線に転じた。「101回目のプロポーズ」、「ひとつ屋根の下」などが視聴率30%を超えた。いまはネットなどに視聴者の時間を取られ、視聴率全体が当時とは比べものにならないほど低くなっているが、15%も取ればドラマランキングで1位になるのも珍しくない。

現代の悲劇を描いた日本テレビ「Mother」

 著者が日本テレビで特筆しているのが「Mother」(2010)だ。母親(尾野真千子)とその恋人に虐待される少女(芦田愛菜)が話題となった。最終回の視聴率は16.3%だったが手応えがあった。脚本はフジテレビから巣立った坂元裕二。2013年の「Woman」でもシングルマザー(満島ひかり)の貧困に光を当てた。どちらも海外でも注目を集めた。日本テレビは「NNNドキュメント」で反発の声が必ず上がる「南京事件」を二度も放送する懐の深さもある、と指摘している。

 本書はドラマだけでなく、バラエティーやニュース、ドキュメンタリーにも紙幅を割いている。また視聴率が一時低迷していたTBSに勢いを与えたドラマ「JIN-仁-」、報道番組を黒字にしたテレビ朝日の「ニュースステーション」、ポケモンで始まったテレビ東京のアニメ戦略など、各局に目配りしてバランスよく平成のテレビを総覧している。

地方局からネット配信

 細かなところまで見ているな、と感心したのは、北海道の地方局、北海道テレビ放送(HTB、テレビ朝日系)の深夜バラエティー「水曜どうでしょう」を紹介した項目だ。全国区の番組になり、DVD販売で180億円を稼ぎ出す新たな収入源を開拓した。出演者の大泉洋(45)は主演映画をもつ人気者になった。HTBは開局50周年ドラマ「チャンネルはそのまま!」を動画配信大手のネットフリックスに話をもちかけて製作費を集め、19年3月に配信後、放送した。

 評者も新人記者(芳根京子)のバカっぷりがすごい、という評判を聞きつけ、この番組見たさに先日ネットフリックスに加入し、見た。抱腹絶倒の笑いの中に、キー局と地方局の軋轢、報道と営業の摩擦など、「地方局あるある」ネタがたっぷりと盛り込まれていた。全5話をぶっ通しで見られるのもネット配信のよさだと思った。

 著者は同局で二つの番組に深くかかわった藤村忠寿さん(53)の「地方局の規模ではできないドラマにすることができた。ネットフリックスが地方局のドラマを配信するのは初めてではないか」ということばを紹介している。地方局にも大きな可能性があることを示した。

 川本さんはあとがきで、こうまとめている。

「平成の30年間に昭和時代を超える脚本家やキャスター、お笑いタレントが輩出されたのかと思うと首をひねり、その理由を考えこんでしまう」

 しかしながら、「時代の刻印をしっかり押された番組が平成の時代にあったのは、この本に取り上げた数々の作品からも明らかだ」と結んでいる。

 キャスターの安藤優子さんは「最近のテレビは、なぜ"お行儀よく"なってしまったのか? それを教えてくれる本です」と本書を推薦している。

 フジテレビを首位からひきずりおろすために日本テレビがどう動いたかは、『全部やれ。 日本テレビえげつない勝ち方』(文藝春秋)に詳しい。本欄で紹介済みだ。  

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