読むべき本、見逃していない?

壇ノ浦で「草薙の剣」を27年間探したが・・・

  • 書名 奪われた「三種の神器」
  • サブタイトル皇位継承の中世史
  • 監修・編集・著者名渡邊大門 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2009年11月19日
  • 定価本体720円+税
  • 判型・ページ数新書判・208ページ
  • ISBN9784062880220

 展覧会によく行く友人たちと話したことがある。日本の国宝がらみで、2009年の「阿修羅展」を超えるような展覧会はあるだろうかと。一人が、それは「『国宝曜変天目』三碗展」だねと言った。世界に三点しかない茶碗の名品が、日本にのみ現存する。それを一つの会場で同時に公開したら、100万人は集まるのではないかと(ちなみに阿修羅展は東京会場だけで約95万人を集めた)。別の友人が言葉をはさんだ。いやもっと強烈な展覧会がある、「三種の神器展」だよ、と。こちらは確実に500万人を超えるというのだ。確かにそうかもしれないが、絶対できない展覧会だね、ということで話が終わった。

鏡・剣・玉の三点セット

 本書『奪われた「三種の神器」――皇位継承の中世史』(講談社現代新書)はその「三種の神器」にまつわる物語だ。著者は日本史家の渡邊大門さん。

 多くの日本人は「三種の神器」が鏡・剣・玉の三点セットだということを何となく知っている。鏡は「八咫鏡(ヤタノかがみ)」、剣は「草薙の剣(クサナギノつるぎ)」、玉は「八尺瓊勾玉(ヤサカニノまがたま)」と呼ばれている。

 本書は古代における神器の成立過程をおさらいしつつ、中世になってからの争奪戦を活写する。古代史、中世史では様々な政治的抗争があり、中学や高校の歴史で一通りのことは習う。本書は折々の権力者らが、自らの正統性を担保する重要な「証」として、いかに「三種の神器」にこだわったかに照準を合わせて改めて振り返る。つまり「神器」を主人公にした「日本史再発見」となっている。

「宝剣の探索」が「国家プロジェクト」に

 実際に教科書にも登場するのが、安徳天皇入水での剣の喪失だ。権勢を誇っていた平氏が没落する。平清盛は娘徳子を高倉天皇に入内させ、生まれた第一皇子が安徳天皇だった。しかし、源氏の台頭で情勢が一変した。平氏は安徳天皇とともに都落ちし、三種の神器を抱えて西に逃避行を続ける。そして1185年の壇ノ浦合戦で敗れ、安徳天皇は入水、三種の神器も海に沈む。鏡と玉は拾い上げられたが、剣が見つからない。

 反平氏勢力はすでに新天皇の践祚を済ませていた。権威のシンボル、三種の神器が欠けているままでは話にならない。「宝剣の探索」が「国家プロジェクト」になる。神社で祈願、密教の加持祈祷も行われ、卜占にも頼った。海人(あま)を動員した水中探索も続けられたが見つからない。1190年になって別の剣で代用することを決定した。さらに1210年、朝儀で、伊勢神宮の祭主から贈られていた剣を新しい宝剣とすることが満場一致で決まった。それでも1212年まで探索が続いたという。神器の喪失がいかに大変な出来事だったか、実感させられる。

知恵者が新たな理屈を作る

 つづいて本書は南北朝時代の争奪戦を描く。南朝と北朝。どちらが神器を握るか。後醍醐天皇は隠岐に流されるときも、神器を持ち出している。その後も神器をめぐり、南北朝の間で壮絶な駆け引きが続く。一時は双方が神器を持っていると主張していた。後醍醐天皇が北朝に渡したのは偽の神器だったという話もあるそうだ。本当はどうなっているのか、見極めるのに苦労する。

 そうした混乱の中で、知恵者が新たな理屈を作り出す。「三種の神器は天下のどこかにあれば、朝廷にあるのと同じである」という考え方だ。さらに、おおよそ以下のような「神器論」も登場する。

・統治者(天皇)にはそもそも徳が備わっており、三種神器は具体的に形になった抹消にすぎない。
・ゆえに、三種神器を軽視することはないが、格別必要ではない。

 本書の著者の渡邊大門さんは以下のように解説する。

「南北朝期以降、三種神器は何度も持ち出され、南北朝勢力のそれぞれが皇位の正統の証とした。しかし、そのたびに持ち出されたのが、当時の知識人による、新たな解釈である。そこでは、時代が降るにつれ、『三種神器不要論』と言うべきものが展開されている」

 新解釈を受けて、応仁の乱の主役の山名宗全が、「凡そ例といふ文字をば、向後は時といふ文字にかへて御心えあるべし」と語ったという話が引用されている。これは「先例」よりも「時勢」が重要だという意味だそうだ。

曜変天目が同時期公開

 「神器」とその「解釈」の歴史を振り返っていると、最近の内閣法制局の憲法解釈とオーバーラップしてきた。長年受け継がれてきた見解も時流で変わるということのようだ。

 本書によると、「三種の神器」は、天皇であっても見ることができないものだという。したがって、一般の人にとっては、神秘のベールに包まれた謎多き存在であろうと記している。「展覧会」などありえない、ということが分かる。

 本書は10年前の刊行。現在は草思社文庫に収められている。今回の譲位でも「三種の神器」が話題になっているので、本書などでおさらいしておくと良いかもしれない。関連で本欄では『古鏡のひみつ』(河出書房新社)なども紹介している。

 なお、余談だが、2019年の春は極めて異例なことに、「国宝『曜変天目』三碗同時期公開」が行われることを知った。滋賀県のMIHO MUSEUMで 3月21日から5月19日まで「大徳寺龍光院 国宝曜変天目と破草鞋」展、奈良国立博物館で 4月13日から6月9日まで「国宝の殿堂 藤田美術館展 ―曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき―」展、東京の静嘉堂文庫美術館でも4月13日から6月2日まで「日本刀の華 備前刀」展が開かれ、同館の曜変天目茶碗が特別出品されるそうだ。それぞれ別の場所での公開だが、未見の人にはおすすめしたい。

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?

sub