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19世紀のイギリスで辞書編集は重い刑罰だった!

悩ましい国語辞典

 「さっきアナウンサーが使っていたことば、何か気になる」と思うことはありませんか? 正しい日本語を使っているはずのアナウンサーだが、ことばを誤用することは決して珍しくないという。本書『悩ましい国語辞典』(角川ソフィア文庫)は、「どっちが正しかったかな?」と悩むような日本語のさまざまな例を集めた「辞典」だ。

 著者は、国語辞典の編集歴36年という元小学館編集者の神永曉さん。日本最大の国語辞典である『日本国語大辞典』(小学館)第二版の編集に長くたずさわった日本語のプロだ。

 本書は「辞典」といっても通常の辞典ではない。本来の意味とされてきたものとは異なる意味で使われていることば、明らかに誤った意味で使われていることばや、読み間違いの多いことばなどを集めた。どこから読んでもいいので、評者が興味をもった例をいくつか挙げてみよう。

「浮き足立つ」はウキウキではない

 NHKの朝の情報番組「あさイチ」で、「浮き足だった話」を視聴者からファクスで募集した際のエピソードが紹介されている。「ウキウキして落ち着かない」という趣旨で書かれたファクスが多数寄せられた。ところが、1枚のファクスが入り、有働由美子アナが「正しい意味は、恐れや不安を感じて逃げ腰になる、落ち着きがなくなるという意味です」と訂正・お詫びしたという。

 神永さんは、アナウンサーだけでなく、番組スタッフ、視聴者が何の疑問ももたずに誤用していた点に興味があるといい、「ほとんどノーマーク」だった誤用と挙げている。

雪辱は「果たす」か「晴らす」か

 「雪辱を○○○」とあったら、正解は「果たす」である。しかし、「雪辱を晴らす」という誤用の方がわずかに広まっているそうだ。「果たす」で目的を達するという正しい意味になる。「雪辱を晴らす」は、おそらく「屈辱を晴らす」との混同から生まれた誤用と断じている。

 誤用が広まって、のちに辞書としても正しいものと採用することもあるが、この例はあくまで誤用だという。

「天地無用」は上下逆にしていいの? いけないの?

 「天地無用」は四字熟語ではないが、載せる辞書が増えているという。意味を取り違えている人が多いからだ。若い人ほど正しい意味を理解していないというデータを紹介している。「無用」は、してはならないこと、必要でないことの意味で、禁止を意味している。だから「天地無用」は天地を逆にしてはいけないという意味になる。わかりにくいので、ゆうパックのように「逆さま厳禁」の方が無難、と書いている。

「まじ」は江戸時代から使われていた

 若者ことばと思われている「まじ」は、江戸時代、1781年の洒落本『にゃんの事だ』というふざけたタイトルの本で使われたのが最初だという。遊女を猫と称していたことからついたタイトルだ。「まじめ」よりも後で使われた。もちろん、いまの若者たちの用法ではない。「大和ことば・伝統的表現」と分類している。

 巻末の「辞書編集者の仕事」という一文が面白い。三浦しをんさんの小説『舟を編む』で知られるようになった職業だが、亡くなった作家井上ひさしさんから直接聞いた、こんな話を紹介している。

 「19世紀のイギリスでは辞書編集という刑罰があったらしい。しかもそれはかなり重い刑罰だったというのである」

 出版社に入社してすぐに辞書編集部に配属になり、40年近く辞書にかかわった神永さんは「社会人になった途端、終身刑の宣告を受けたようなものなのかもしれない」と述懐している。

 『『日本国語大辞典』をよむ』(三省堂)という本を紹介した際に、「三版が紙の辞典として刊行されることはあるのだろうか?」と評者は書いたが、神永さんは退職後もその編纂事業に参画しているそうだ。

 本書は2015年に刊行された『悩ましい国語辞典-辞書編集者だけが知っていることばの深層』(時事通信社)を文庫化したもの。

 国語辞典関連では、『日本語の作法』(青土社)、『本屋風情』(角川ソフィア文庫)を紹介している。

  • 書名 悩ましい国語辞典
  • 監修・編集・著者名神永曉 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2019年2月25日
  • 定価本体1080円+税
  • 判型・ページ数文庫判・423ページ
  • ISBN9784044003487
 

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