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最近、あまり洋楽を聴かなくなっていませんか?

私たちは洋楽とどう向き合ってきたのか

 最近あまり洋楽を聴かなくなったな、と思っている人は多いのでは。還暦を過ぎたばかりの評者の世代は、日本のフォークやポピュラー音楽も聴いたが、それ以上に洋楽にどっぷりと浸かった青春を送ったものだ。洋楽の雑誌をチェックしては知識を競い合い、話題のアルバムが出れば買い、ラジオ番組には洋楽をリクエストするハガキをせっせと投稿した。だが、いま日本では邦楽の方が洋楽よりも売り上げが多い「ガラパゴス」的な状態が続いているという。

社会学者らが分析

 本書『私たちは洋楽とどう向き合ってきたのか』(花伝社)は、日本のポピュラー音楽が、どのような経緯をたどりながら洋楽を受容し、展開していったかを研究者が客観的な視点でとらえた画期的な本である。

 編著者の南田勝也さんは武蔵大学社会学部教授。『ロックミュージックの社会学』(青弓社)などの著書がある社会学者だ。その呼びかけに応え、7人の研究者が分担執筆している。

 序章「洋楽コンプレックス」に始まり、ジャズ、ビートルズ、ロック、ヒップホップ、Jポップ、ウェブ的音楽生活と編年体で編集されているので、日本の戦後史ともリンクさせて読むことができる。

 序章で南田さんはこう指摘している。

 「日本の音楽のクオリティやレベルに悲観しているがゆえに、西洋に匹敵すると判断できる日本人ミュージシャンを必死で探し出そうとする音楽ファンの試み。これらの感覚は、単に劣等感ではなく、差異化・卓越化の源泉となり、競争的状況を生み、音楽への没入へと誘うものであった。日本が音楽消費大国であるのは、つねに一歩先へ行きたいとするそのような衝動が駆動し続けてきた所為である」

 1930年代、レコード喫茶でのジャズ鑑賞から始まった洋楽の受容は、「文化エリートたちの知的欲求を大いに刺激」し、戦後の来日公演文化へとつながった、と指摘している。

 南田さんが執筆した第3章「日本のロック黎明期における『作品の空間』と『生産の空間』」は、フランスの社会学者ブルデューの理論を導入。大衆(心情)評価軸、批評評論評価軸、ジャーナル評価軸の3つの評価軸の中にアーチストをマッピングしているのが興味深い。

 「作者たちが、自分自身の注釈者になる」(ブルデュー)という自己言及性の極めつきが、日本語詞のはっぴいえんどと、英語詞による世界進出を目指した内田裕也との間で生じた「日本語ロック論争」だったという。

ウェブでますます「洋楽離れ」

 最終章、第9章「ウェブ的音楽生活における洋楽の位置」も興味深い。執筆したのは、法政大学社会学部准教授の土橋臣吾さん。2008年に23%あった洋楽オーディオレコード生産比率は2017年には12%まで落ち込んでいる。いわゆる「洋楽離れ」の実態を分析、ウェブの台頭によって、雑誌などの評価を経由せずに、音のみによる判断が行われるようになったという。そうした人たちは「洋楽」と「邦楽」を区別することに意味は感じない。一方、音楽に「共感」や「近さ」を求める人はそもそも洋楽への回路を閉ざしている。いずれにせよ、洋楽が積極的に選択される訳ではない、と。

 あとがきで、南田さんは世界システムにおけるアメリカの地位の揺らぎが、世界の文化受容構造にも変動をもたらす可能性があることを指摘している。日本のポピュラー音楽は「新たな並走相手を見つけるのか、あるいは孤独なランナーになってしまうのか」動向を見守りたい、と結んでいる。

 社会学者がこれほど音楽を研究していることを初めて知った。専門書ではあるが、日本のポピュラー音楽に関心がある人ならば面白く読めるだろう。さきごろ亡くなった内田裕也さんの位置づけもようやく腑に落ちた。

  • 書名 私たちは洋楽とどう向き合ってきたのか
  • サブタイトル日本ポピュラー音楽の洋楽受容史
  • 監修・編集・著者名南田勝也 編著
  • 出版社名花伝社
  • 出版年月日2019年3月20日
  • 定価本体2000円+税
  • 判型・ページ数四六判・308ページ
  • ISBN9784763408822
 

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