読むべき本、見逃していない?

ニューヨーカーの言葉に潜む「魔法」

  • 書名 ニューヨークの魔法は終わらない
  • 監修・編集・著者名岡田光世 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2019年5月 9日
  • 定価本体830円+税
  • 判型・ページ数文庫判・240ページ
  • ISBN9784167912857

 日本で「魔法」といえば、ディズニーランドのキャッチフレーズ「魔法の王国」を思い浮かべる人も多かろう。だが、演出されたレジャー施設などに行かなくとも、日常のさりげない会話の中に本物の「魔法」は潜んでいる。それを見つけられるかどうか、だけだ。

 J-CASTニュースでコラム<「トランプのアメリカ」で暮らす人たち>を連載中の岡田光世さんの文春文庫エッセイ『ニューヨークの魔法は終わらない』が発売された。「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾『ニューヨークのとけない魔法』以来、第8弾の『「ニューヨークの魔法のかかり方」』まで累計40万部を数え、エッセイとしては異例のロングランを続けてきた。今回はシリーズ第9弾にして「最終章」との位置づけで、シリーズ完結に合わせ、ほぼ書下ろしで構成されている。

 J-CASTニュースの「トランプのアメリカ」では、共和党と民主党の支持者間の感情の対立やイスラエルやユダヤ教をめぐる米国民の複雑な思いのひだを描いている岡田さんだが、『ニューヨークの魔法は終わらない』では、ニューヨーカーを中心とする米国人の日常会話を、実際に見たまま聞いたまま、すくいとっている。その一言ひとことに「魔法がある」というテーマはシリーズを通して変わらない。

グラウンドゼロの警備員の「秘密」

 ふだん遣いの言葉が、添えられた著者撮影のスナップ写真と合わせて、まるで映画のセリフのように伝わってくる。アメリカ映画を見ていると、登場する大統領、ピアニスト、学生、主婦、バーテンたちが、なんとも洒落たセリフを吐くな、と感じることがある。岡田さんが見つけて拾ってくる普通の人たちの言葉をかみしめていると、映画の前にそういう日常があるのか、と実感する。肝になる言葉は、必ず英語表記がエッセイの最後に再掲され、それが箴言のような効果を出している。

 トランプ大統領就任以降の話題も、J-CASTニュースの連載コラムを改題・加筆した「五番街のエイプリルフール」などが収録されているが、大半はストリートやレストランなどで知り合った名前も出てこない人々、そして、かけがえのない友人や家族とのやり取りがほとんどだ。ユーモアの中に悲しみをたたえたような言葉も少なくない。

 「グラウンドゼロの警備員」というエッセイでは、やけに明るくて、おしゃべりな警備員との会話が出てくる。仏頂面で直立不動が定番の日本の警備員では考えられないタイプだ。道を聞いた著者に、その警備員が道順を教え終わると、ジョークで It's top secret. Understand? (極秘なんだ。分かったか) といたずらっぽく語る場面が出てくる。そしてし、彼がなぜ、2001年9月11日にテロで崩落したワールドトレードセンターの跡地であるグラウンドゼロの警備員をしているのかが最後に明かされる。言葉が違った意味を放ち始める。

 シリーズは今回で完結するが、こういう警備員がいるから、ニューヨークの魔法は終わらないのだろう。ただ、日本にこんな警備員がいたら、すぐに、ネットで炎上するかもしれない。そう考えると、魔法にかかりたい日本人がこのエッセイを選ぶ理由もわかったような気がした。
 なお、シリーズの中から岡田さんが選んだ30編と書下ろし、音声、動画つきの無料の電子書籍『世界にひろがれ、とけない魔法』は、こちらから無料でダウンロードできる。

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