読むべき本、見逃していない?

朝日一面トップ「フラット35不正」・・・スクープ記者が告発する不動産業界のウラのウラ

  • 書名 やってはいけない不動産投資
  • 監修・編集・著者名藤田知也 著
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2019年5月14日
  • 定価本体750円+税
  • 判型・ページ数新書判・272ページ
  • ISBN9784022950185

 「フラット35を悪用して不動産投資」――2019年5月4日の朝日新聞一面トップに特ダネ記事が大きく出ていた。長期低金利の住宅ローン、「フラット35」を不動産投資に使う不正が横行していたというのだ。「『住む』を偽り賃貸用に」というサブ見出しがついている。

 この記事を取材執筆したのが、本書『やってはいけない不動産投資』 (朝日新書)の著者で、朝日新聞特別報道部の藤田知也さんだ。いよいよまた動き出したな、と思った。

石井啓一国土交通相が実態解明を指示

 というのも、藤田さんの名前は少し前、「スルガ銀行」を巡る不正事件でも盛んに見かけたからだ。同行の様々な不正の中でも際立っていたのが、シェアハウスなどの不動産融資の問題。それをいち早く掘り起し、キャンペーンを続けていたのが藤田さんだ。今回の「フラット35」を巡るスクープは、そうした取材の延長線上のものだろう。

 「フラット35」は住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)が民間金融機関などと連携して提供する住宅ローン。利用できるのは、実際に住むために家を買う人だ。ところがインチキをして、投資用不動産として購入している人がいたというのだ。上記の記事では、中古マンション販売会社の元社員に取材し、18年6月までの約2年間で、フラット35を投資目的で使って約150戸を売った、という証言が紹介されている。

 具体的な手口も記事の中に出ている。購入者が住んでいるようにみせかけて、いったん住民票を移すなどすれば投資目的でも見抜きにくい。業者が中心になって手口を考え、購入者もそこに組み込まれている。

 もちろんこのマンションは賃貸に出される。そして、購入者は安いローンで購入したマンションから、業者が保証する高い賃貸料を得て、最終的には儲かるというのが上手くいった時の仕組みだ。

 この事件の最大の問題点は、「フラット35」を提供する住宅金融支援機構が、政府が7000億円超を全額出資する独立行政法人だという点だ。つまり国民の金が不正に運用されていたことになる。したがって、石井啓一国土交通相はただちに、機構に実態解明を指示したという。当たり前だろう。購入者は貸付金の一括返済を求められる可能性もあるし、公的機関を騙しているので悪質。刑事事件になる可能性があると感じた。スルガ銀行の私的取引の事件よりもさらにステージが上がっている。

「偽造」専門会社も

 話がやや横道にそれたように思われるかもしれないが、本書は、その藤田さんの執念深いこの2、3年の取材を余すところなく開陳している。不動産投資を考えている人、すでにやっている人にとってはもちろん、不動産会社や金融機関の関係者にとってもためになりそうだ。

 非常に多くの様々なケースについて記されているが、特に興味深いのは、投資用不動産の現場では、上記の「フラット35」でも明るみに出たような様々な「改竄」が日常的に行われているという話だ。

 購入者には元金が不足しているケースがほとんど。したがって業者がいちばん最初にやらなければならないのは、購入者にカネがあるように見せかけること。そうしないと銀行が住宅資金を貸してくれない。したがって、年収、預金、納税額、健康保険類の書類データを全部改竄する。年収300万円、貯金もほとんどない人が、1億円超の不動産を買える人に早変わりする。

 驚いたのは、金融機関の側が審査で、そうした大事な書類の「原本」を見ないケースが非常に多いということだ。金融庁が2018年10~11月に全国の銀行・信用金庫・信用組合を対象にした調査によると、マンション、アパートなどの一棟物件向け融資の審査で、借り手を確かめる際に、預金通帳の原本を「必ず確認」する金融機関は2割前後しかない。ネットバンキングの預金残高を表示画面で「必ず確認する」という金融機関は1割前後、「一切確認しない」が銀行で3割、信金・信組で6割超。給与明細や税務書類による年収の確認も、原本を必ず確認するのは2~3割台にとどまっていた。

 本書には改竄前と、改竄後の書類が写真付きで掲載されている。全く別物に変っている。通帳コピーの偽造を専門に請け負う会社もある。一件10万円。笑ってしまうのは、税務署への申告が国税庁のHPでやれるようになったので、改竄も簡単になっていることだ。私文書のみならず、公文書の偽造も横行している。

「エビデンスファイル」が証拠に

 なかでも都内の不動産W社については驚いた。従業員は約30人。創業者や社長は不動産投資の入門書を数多く出版している。大手出版社からも出している。不動産セミナーで客を見つけて中古一棟マンションを売っていた。

 藤田さんはその内部文書をこってり入手している。動かぬ証拠となるのが、同社が作成していた「エビデンスファイル」。客の本来の資産は「リアル提出資産」、偽造した資産は「編集資産」。その両方が記載されているのだ。

 W社の仰天手口の極限は、「リアルログイン画面」だ。ITに長けた社員がネット上に本物の銀行そっくりの画面をつくった。自前のパソコンで大手銀行の偽トップ画面を開いて口座番号を打ち込むと、偽造した出入力記録や預金残高が表示される。藤田さんはスマホアプリで同様なアプリをつくっていた他社のことも紹介している。

 藤田さんは同社の創業者や社長と3度面談した。「他の業者が不正をやっているという証拠を集めて提供したら、ウチの話は抑えてもらえませんか」。そんな条件を切り出される。突き放したら、「私たちが仮に不正をやっていたとして、それで営業できなくなるのは仕方ないとしても、どうしてウチだけ書かれるのかという思いはあります」と本音が漏れる。「他にもっと大規模に悪いことをしている会社があるのに」。

 記事が出た後、同社は営業停止になったが、主要メンバーは同業他社に移り、不動産ビジネスを続けているという。同様の改ざんは一部上場の不動産会社でもやっていたというから驚く。

「週刊東洋経済」は「不動産バブル崩壊前夜」を特集

 こうした不動産投資の破滅パターンは大体共通している。まず、自己資金なしでも購入できると客に持ち掛ける。賃貸に回したときの高い賃貸収入を約束するのだ。そのうち賃貸収入が減少、もしくは途絶えて客は大慌て。こうなるのは当然で、そもそも業者は別のスキームで動いている。たとえば建設業者から1億円で購入したアパートを1億4千万円で客に売りつけ、ここで4000万円のサヤを抜く。これが業者の儲けの源泉だ。部屋が埋まっていなくても、このサヤから客への賃料を払う。そのうち、物件の販売が足踏みすると、客に賃料部分を払えなくなり破綻する。

 「フラット35」などは客側も不正を承知しており、話は複雑だ。「みんなやっている」「銀行員も承知している」といわれると、悪いと知りつつ不正に手を染めてしまう。

 藤田さんが鋭く指摘するのは、前著『日銀バブルが日本を蝕む』(文春新書)でも指摘しているように、アベノミクスと日銀の未曽有の金融緩和の影響だ。金融が緩むと、あふれたお金がまず向かうのは株式市場と不動産だということはバブルで経験済み。銀行員は、不動産融資にのめり込み、審査が緩む。そこに悪徳不動産業者がつけ込む。場合によっては銀行員とグルになる。融資実績を上げるために、銀行はヤバイ手口も黙認する。

 政府の看板政策の中で起きていることなので監督官庁のチェックも大甘になる。スルガ銀行の個人向けローンは高収益を実現していたこともあって、当時、金融庁の長官が講演でスルガ銀行をベタ褒めしていたというのは有名な話。全く節穴もいいところだ。

 以上のように、本書は日銀担当として「頭」を鍛えた記者が、「週刊誌記者」時代の「足」を使う取材で調べまくった不動産業界の裏事情を報告したもの。その後、藤田さんは特報部に移ったようだが、特報部では別の記者グループが最近、不動産の「負」の要素がふくらんでいるということを『負動産時代』(朝日新書)で書いている。

 経済専門誌の「週刊東洋経済」は19年3月23日号で「不動産バブル崩壊前夜」を特集したが、朝日新聞特報部は着々とその下準備を進めているようだ。

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