本を知る。本で知る。

フランス人は「思いつきで服を買わない」

シンプルで心地いいパリの暮らし

 ふらんすへ行きたしと思えどもふらんすはあまりに遠し、と呟いたのは萩原朔太郎だった。実際にフランスまで出かけて『ふらんす物語』を書いたのは永井荷風だ。

 100年ほど前の明治や大正の文学者たちも大好きだったフランスへの思いは、今の日本人にも受け継がれている。「フランス」や「パリ」を冠した本や雑誌の特集は出版界の定番となっている。

30平方メートルのアパルトマンに住む

 本書『シンプルで心地いいパリの暮らし』(ポプラ社)もそうした憧れのフランス物の一冊だ。「シンプル」という点ではベストセラーになった『フランス人は10着しか服を持たない』(大和書房)に近いテイストかもしれない。

 しかし『10着』はアメリカ人の女子大生が、交換留学でパリの大学に行くことになり、大きなスーツケース2個に服をぎゅうぎゅう詰め込んで、ホームステイ先の貴族の末裔という由緒ある家で暮らした話。立派な部屋を割り当てられたが、ワードローブが小さい。何これっ、持ってきた服が入らないじゃないということで知ったのが、「フランス人は10着しか服を持たない」ということだった。

 これに対し、本書の著者アーティスト、イザベル・ボワノさんは純然たるフランス人。しかもパリの下町11区の広さ30平方メートルのアパルトマンに住む。等身大の本当のフランス人らしさがのぞけそうな気がする。「なんでもない日」を大切に過ごすという淡々とした暮らしぶりが記されている。

ワードローブ自体が小さい

 イザベルさんはフランスの小さな町で生まれ、パリに20年。ふだんは雑誌や本、雑貨のイラストを描いたり、展覧会やワークショップを開いたりしているという。「Afternoon Tea」など日本との仕事も多いそうだ。

 30平方メートルの部屋というのは狭い。できるだけ片付けて、必要なものだけを持つようにしているという。そのワードローブは、やはり衣類の数が少ない。トレンチコート、ダークブルーのジャケット、赤いスウェットシャツ、ジーンズなどなど。青、白、ベージュ、黒などベーシックな色でコーディネートすることを心がけている。

 春夏秋冬のファッション例がイラスト入りで描かれているが、そこに登場する衣類すべてを合わせても大した数ではない。「10着」ではないが、30着ぐらいしかなさそうだ。ほとんど畳めるものばかりで、父の手作りというワードローブ自体が小さい。

 服を買うときは耐久性がある素材か、いま持っている服と合うかどうかを常に吟味する。「思いつきで買わない」と明確に書いている。

「思想」も語っている

 本書はファッション、コスメ&ボディケア、花と緑のある暮らし、掃除&収納、リラックスタイム、キッチンに分かれている。それぞれに「シンプルライフ」の工夫が伺える。

  

 読みながら思ったのは、かつての日本人もこんな感じだったのではないかということだ。東京の下町あたりでは、食事の後、ちゃぶ台を片付けて布団を敷いて寝ていた。衣類は季節ごとにきちんとたたんで収納し、無駄な買い物はしなかった。僅かな路面に植木鉢を置いて植木や草花を楽しんだ。

 モノがあふれ、ありとあらゆる広告が消費欲を焚きつける時代。身の丈に合った質素な暮らしを続けるのは容易ではないが、様々な小さな工夫や知恵が自然と生活の質を高めていく。本書を読んで痛感したのは、自分なりのしっかりした考えを持って生きることの大切さだ。その意味では、「暮らしぶり」のみならず「思想」も語っている本と言える。

 本書はポプラ社の他の本と同じく、きわめて読みやすい。評者は編集者をしていたこともあるので、構成や文章、イラスト、写真などが細部まで細かく目配りされていることがよくわかる。

  • 書名 シンプルで心地いいパリの暮らし
  • 監修・編集・著者名イザベル・ボワノ 著、編集部 訳
  • 出版社名ポプラ社
  • 出版年月日2019年6月10日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数A5判 ・127ページ
  • ISBN9784591163047

オンライン書店

 

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?