読むべき本、見逃していない?

女性は手芸、男性は工作・・・なぜ男女で趣味が分かれたか

  • 書名 趣味とジェンダー
  • サブタイトル<手づくり>と<自作>の近代
  • 監修・編集・著者名神野由紀、辻泉、飯田豊 編著
  • 出版社名青弓社
  • 出版年月日2019年6月18日
  • 定価本体3000円+税
  • 判型・ページ数四六判・368ページ
  • ISBN9784787234520

 「子供の科学」(誠文堂新光社)という少年向けの科学雑誌がある。評者も小学校の高学年の頃、この雑誌を毎号読み、模型や工作への関心を高めたものだ。本書『趣味とジェンダー』(青弓社)の第2部「<自作>する少年共同体」が、この雑誌の工作記事を歴史的に分析しているのに注目し、本書を手に取った。

11人の共同研究の成果

 本書は、共同研究「近代日本の手作りとジェンダー――大量生産の時代における趣味のジェンダー化」(2015-17年度 科学研究費)の研究成果をまとめたものだ。編著者の一人である神野由紀・関東学院大学人間共生学部教授(デザイン史)は「男女の趣味の世界は、マニアックになるにつれて、干渉し合うことが少なくなる。手芸という極めてジェンダー化された趣味のもう片方では、男性の手作りの趣味も大衆化していて、男女の手作り趣味のあり方を同じ土俵で研究する必要があるのではないか」という問いからスタートしたと書いている。最終的には11人の研究会となり、本書も3部構成となっている。

 第1部「家庭生活に役立つ<手づくり>」では主に「ジュニアそれいゆ」(ひまわり社、1954-60年)を基礎資料とし、手芸とその周辺の少女たちの手づくりについて論じている。神野さんは第3章「インテリア手芸と工作の時代」で、女性が手芸だけでなく工作という男性領域にも一時期接近したが、結局は手芸に回帰していった状況を明らかにした。

創刊100年近い「子供の科学」

 そして第2部が「子供の科学」の分析である。初めて知って驚いたのだが、同誌の創刊は1924年で、現在も続いているから百年近い歴史があるということだ。そんなに古い歴史があるとはつゆ知らなかった。

 第7章「動員される子供の科学――戦時下の工作と兵器」では、松井広志・愛知淑徳大学創造表現学部講師(メディア論)が、特に戦中期にかけて「科学」志向から「軍事」志向への変わっていった過程を明らかにしている。

 「子供の科学」の主な読者層は、小学生の男児である。ここで工作にめざめた子供たちは、中学に入ると、鉄道模型やラジオ工作と分化してゆく。そしてある者はアマチュア無線へと進化、そうした回路を経て、評者の世代の理系少年の多くは当時勃興したパーソナルコンピューターの世界へなだれ込んでいった。手づくり、工作は、少年の夢をかなえるツールでもあったのだ。

 女性の手芸と男性の工作趣味はそれぞれジェンダーという点では排他的だが、本書の第3部「<手づくり>と<自作>の境界を揺さぶる趣味の実践」では、この図式に収まらない事例を紹介している。日曜大工は当初、男女共通の趣味として推奨されていたが、しだいに男性の趣味に特化していった事例。また初期のケーブルテレビ局では女性の自発的な参加もあったが、趣味から仕事に移行するにつれ、性別職務分離が進んでいった事例が報告されている。途中、わずかながら女性領域との接点が見られたものの、結局は男性の<自作>文化に収束した点で共通している、と論じている。

 本稿では、本書のほんのさわりに触れたにすぎない。それぞれの力の入った論文がそろっている。

 戦前、戦中は「軍事」へと子供の眼も向かっていったであろう。宮崎アニメ「風立ちぬ」の主人公となった零戦設計者も「子供の科学」を読んだのであろうか。そして戦後、科学立国の立役者となった技術者たちも。子ども向けの雑誌として研究の対象にならなかった雑誌から、多くの知見を引き出した執筆陣に、かつての「科学少年」として敬意を表したい。    

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