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廃仏毀釈の真実、全国で起きた混乱を丹念に追った労作

  • 書名 仏教抹殺
  • サブタイトルなぜ明治維新は寺院を破壊したのか
  • 監修・編集・著者名鵜飼秀徳 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2018年12月20日
  • 定価本体880円+税
  • 判型・ページ数新書判・251ページ
  • ISBN9784166611980

 明治維新で誕生した新政府が神社と寺院を分離するために推し進めた「神仏分離令」。それが各地に引き起こした混乱によって生じたのが廃仏毀釈だ。その顛末が、これほど大きな傷跡を残していたとは知らなかった。『仏教抹殺』(文春新書)は2018年12月の刊行だが、今も版を重ねて読み継がれている。

著者は僧籍を持つジャーナリスト

 鵜飼氏は1974年生まれの僧籍を持つジャーナリスト。京都にある浄土宗正覚寺の副住職だ。大学卒業後、ジャーナリズムの世界に飛び込み、報知新聞、日経BP社を経て2018年1月に独立した。手堅いジャーナリズムの手法は記者時代に培われたものだろう。すでに『寺院消滅』など何冊もの著作がある。

 廃仏毀釈の端緒になったのは1868(慶応4)年に出された神仏分離令だ。新政府は国民統制のための精神的支柱として「王政復古、祭政一致の国づくりを掲げ、純然たる神道国家(天皇中心国家)を目指した。この時、邪魔な存在だったのが神道と混じり合っていた仏教であった」。

 「中世以降江戸時代まで、神道と仏教がごちゃまぜ(混淆宗教)になっていたのである。祈祷もするし、念仏も唱える。祓(はらえ)も、雨乞いもする。寺と神社が同じ境内地に共存するのも当たり前」

 それが神仏分離令により、「神社に祀(まつ)られていた仏像・仏具などを排斥。神社に従事していた僧侶に還俗(僧侶をやめて俗人に戻ること)を迫り、葬式の神葬祭への切り替えなどを命じた」。

 「この時点では新政府が打ち出したのはあくまでも神と仏の分離であり、寺院の破壊を命じたわけではなかった。だが、時の為政者や市民の中から、神仏分離の方針を拡大解釈する者が現れた。そして彼らは、仏教に関連する施設や慣習などを悉(ことごと)く壊していった」

全国の発端になったのは日吉大社の神官の蜂起

 「廃仏毀釈の最初の大きなアクションは、仏教の一大拠点であった比叡山の麓(ふもと)の日吉大社(滋賀県大津市坂本)で起きた。日吉大社は全国に3800社以上の『日吉』『日枝』『山王』と名のつく神社の総本宮である」

 太政官布告からわずか4日後の1868年4月1日、四十数人の武装した神官たちが日吉大社に乱入し、延暦寺側の責任者に社殿の鍵の引き渡しを要求した。押し問答の末、神官らは「本殿になだれ込み、祀られていた仏像や経典、仏具などに火を放った。その数、124点に及んだ」。暴徒の中には神官から雇われた地元坂本の農民100人も含まれていた、とされている。日吉大社は延暦寺に支配されており、神官らは僧侶に虐げられているという意識があった。坂本は延暦寺が支配していて、小作人に重い年貢を背負わせてきた延暦寺への反感が噴出したという見方もあるようだ。

 こうした混乱にあわてた新政府はすぐ仏教施設の破壊を戒める太政官布告を出すが、破壊の勢いはとどまらなかった。一方で、仏教勢力の弱体化を図りたい政府は上地令(あげちれい)という土地召し上げ令を出す。上地令は1871年と1875年の2度にわたって出され、とりわけ京都や奈良の大寺院が被害を被った。京都市編纂の「京都の歴史」によると、清水寺は10分の1以下、東本願寺も半分以下の面積になった。今も中学、高校の修学旅行生でにぎわう約500メートルの新京極通も多くの寺院の整理によって出現した。奈良も同様で、興福寺は今も大伽藍を擁するが、奈良国立博物館、奈良県庁、奈良地裁や奈良ホテルなどはすべて興福寺の寺領に建っている。

 東京も同様だった。徳川家の菩提寺・増上寺は広大な寺域を抱えていたが、上地令で寺領を大幅に減らし、芝公園や東京プリンスホテルなどができた。ミシュランガイドで紹介された人気観光地・東京郊外の高尾山も例外ではなかった。高尾山薬王院は上地令で、「寺領720余町歩のうち、境内地10町歩を残して没収され、高尾山の大部分は国有林になってしまった」。

松本の旧開智学校も寺院の廃材がもとに

 長野県は教育県として知られている。松本市にある旧開智学校は国の重要文化財で、代表的な明治初期の学校建築物として近く国宝に指定される見込みだ。だが、この建物の一部は廃仏毀釈で廃寺になった寺の木材を利用してできたものだ。「明治初期に実施された文部省調査によると、全国の約4割の小学校が寺院を利用したものであったという。近代教育の礎は、寺院の犠牲なくして成立し得なかったのである」。

 廃仏毀釈、その延長上にある日本の近代化に対する筆者の悲憤慷慨が聞こえてくる。だが、筆者は廃仏毀釈を糾弾するだけではない。廃仏毀釈が各地で過激化した要因として4項目を挙げる。最初は、各地のリーダーが新政府の方針にすり寄った「権力者の忖度」、次が「富国策のための寺院利用」、3番目が「熱しやすく冷めやすい日本人の国民性」、最後が「僧侶の堕落」だという。「仏教界の体たらくが廃仏毀釈をより過激にさせた面は無視できない」。

 廃仏毀釈による寺院破壊が全国的にみてもひどかった松本では「(ある大寺院の)住職が妾の元に入り浸り」、地元の強い反感を買っていた。「松本では76%の寺院が破却されているが、その後、復興できた寺院とそうでない寺院とに分かれた」「復興が叶わなかった寺院は、むしろ経済的にも恵まれた大寺が多かったのではないか」。

 本書が好評なのは、知られざる真実を独自調査で掘り起こした行動力と、仏教界に身を置きながらも、事実をできるだけ客観的に見ようとする公平な姿勢が支持されたのだろう。それにしても、ほとんど資料がないところから出発し、各地のすさまじい廃仏毀釈の実相を掘り下げていく執念とエネルギーはすさまじい。筆者の調査は維新の原動力になった薩摩(鹿児島)、長州(山口)から宮崎、長野、岐阜、佐渡(新潟)、隠岐(島根)、伊勢(三重)、東京、京都、奈良など全国に及んでいる。本書を読むと全国的な寺院の偏在と宗派の偏りが明治初期の廃仏毀釈に関係がありそうだということも理解できる。それにしてもなぜ、こうした実証的で全国的な調査が維新から150年を経ないとできなかったのだろう。それだけ、宗教にからむ問題は扱いづらいということなのだろうか。

BOOKウォッチ編集部 レオナルド)

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