読むべき本、見逃していない?

「名目賃金」が下がり続けているワケ

  • 書名 国家の統計破壊
  • 監修・編集・著者名明石順平 著
  • 出版社名集英社インターナショナル
  • 出版年月日2019年6月 7日
  • 定価本体820円+税
  • 判型・ページ数新書判・224ページ
  • ISBN9784797680386

 賃金が上がっているという発表が、実はデタラメだった――2018年から19年にかけて厚労省の毎月勤労統計調査の数字が実態を反映していないと、国会などで取り上げられ大問題になった。本書『国家の統計破壊』(インターナショナル新書)は、独自の調査で、この厚労省の毎月勤労統計調査を巡る不正についていち早く気づいてブログなどで指摘していた弁護士、明石順平さんの著書だ。

多くの国民が知る

 まず事案を簡単に振り返っておこう。大手メディアは2018年8月、「賃金21年ぶりの伸び率」というニュースを大々的に流した。厚労省の毎月勤労統計調査結果にもとづくものだった。名目賃金が速報値で3.6%も伸びているというのだ。この発表に、疑問を感じたのが明石さん。自身のブログで9月10日、早々と「おかしさ」を指摘した。算出方法を変更したことで結果にゆがみが出ているのではないかと。

 かなり複雑な操作がいくつか行われていた。わかりやすいところでは、「従業員5~29人」の事業所で働く人が調査全体に占める割合が圧縮されていた。以前は、母集団に占める比率を43.9%としていたが、新しい調査の母集団では41.1%にしていた。小規模事業所で働く人は賃金が相対的に低いから、その階層の労働者の割合が減れば平均値は当然高くなる。普通なら、算定方法を変更した場合には、過去にも遡って数字が改訂されるのだが、今回はそうされていなかった。かなり意図的な手口だということが分かる。

 こうした手法のおかしさによる異常な名目賃金の伸びは、統計や経済の専門家の間でもくすぶり出し、東京新聞などが取り上げる。年末になって、それが爆発し、多くの国民が知るところとなった。

公述人として国会にも出席

 この統計不正は、その後の調査などで、2004年ごろから行われていたものと、2018年1月以降に行われていたものが混在していたようだ。このあたりやや複雑なので、正確には本書を読んでいただきたいのだが、2004年以降の不正とは、名目賃金を全体として抑え込もうとした不正。こちらは、雇用保険の給付額を削るためだったのではないかと言われている。勤労統計の賃金額が給付水準に連動するからだ。実際、約600億円の支払い不足が生じたと報じられている。

 後者の18年からの不正は、経済が回復して賃金が上がったと見せかけるものと言えるだろう。本書を読んで評者はそのように受け止めた。厚労省の統計不正では、二つの話が混在しているため、何となく「不正は以前から続いていた」というようなあいまいな感じで幕引きになってしまったような気がする。

 明石さんが最初に統計不正に関心を持ったのは2016年のことだという。政府はアベノミクスで景気が良くなったと言っている。ところが、野党議員は実質賃金が下がったという。どちらが本当なのか。自分でも統計分析を始めたのがきっかけた。ブログで「アベノミクスによろしく」を書き始め、反響があったので出版、さらに19年2月には『データが語る日本財政の未来』も出版した。

 厚労省の統計不正に関しては、疑問を指摘した先駆者ということで、国民民主党の議員に呼ばれて野党の合同ヒアリングに出席した。公述人として国会にも出た。

すれ違い答弁が目立つ

 本書は、「第1章 『賃金21年ぶりの伸び率』という大ウソ」「第2章 隠れた『かさ上げ』」「第3章 隠される真の実質賃金伸び率」「第4章 『かさ上げ』の真の原因」「第5章 誰が数字をいじらせたのか」「第6章 『ソノタノミクス』でGDPかさ上げ」「第7章 安倍総理の自慢を徹底的に論破する」「第8章 どうしてこんなにやりたい放題になるのか」の8章仕立て。

 第二次安倍政権の発足以降、わかっているだけでも53件の統計手法が見直され、そのうち38件がGDPに影響を及ぼしているという。「手法の変更によりかさ上げされた数字では連続性がなく、もはや統計の意味をなさない」と著者は憤る。

 常用労働者の定義を変更して「日雇外し」をするとか、家計調査も実は水増しとか、専門家の結論を官邸が捻じ曲げるとか、様々な統計破壊の実相に踏み込んでいる。

 本書を読んで感心したのは、明石さんのしつこさだ。弁護士としての職業癖といえるかもしれない。労働事件、消費者問題が専門らしいから、仕事の延長ではあるが、熱心だ。1984年生まれというからまだ若い。

 国会でのやりとりについては、答弁する側が、聞かれてもいないことを延々としゃべり続けるという戦法ではぐらかしていることを目撃している。これは、質問時間が、答弁時間と合わせてカウントされるためで、答弁する側がだらだらしゃべることで、質問される時間を削っていると指摘している。確かにそうしたすれ違い問答は目立つ気がする。

 厚労省は7月9日、今年5月の毎月勤労統計を発表した。名目賃金も実質賃金も5か月連続で前年同月比マイナスになっている。これは、1月に抽出調査の対象事業所を一部入れ替えたことで、賃金水準の低い事業所が増えたことによるらしい。国会で追及されたせいなのか。

 安倍首相は「すべての人のさらなる所得の向上を目指します」と自信満々のようだが、新しい勤労統計が伝える真実の数字とはズレがある。

 関連で本欄では『「働き方改革」の嘘――誰が得をして、誰が苦しむのか』 (集英社新書)、『監視社会と公文書管理――森友問題とスノーデン・ショックを超えて』(花伝社)なども紹介している。

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