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ZOZOが冠スポンサーになって米国男子メジャー大会を日本で開催

ゴルフトーナメントスポンサー興亡史

 ANAインスピレーション、三井住友VISA太平洋マスターズ、ダイヤモンドカップ、ヨコハマタイヤPRGRレディス、フジサンケイクラシック......と聞いて、ゴルフトーナメントの名称と気がつくのはゴルフファンくらいだろう。

ゴルフトーナメントは日本経済の浮沈を反映

 バブル経済華やかなころ、週末の午後ともなればゴルフトーナメントが長時間中継されたが、今やゴルフ人口の減少やスター選手の不在により視聴率が取れないため、地上波では1時間半程度の録画放送が当たり前になった。系列の衛星放送やBSではライブで放送することもあるが、そこまで追いかけるのは、よほどのゴルフ好きに違いない。

 本書『ゴルフトーナメントスポンサー興亡史』(幻冬舎新書)は、ノンフィクション作家の森功さんが、プロゴルフのスポンサー企業の移り変わりをたどることで、戦後経済の盛衰を浮き彫りにした本だ。

 ゴルフボールやクラブを製造販売していたタイヤメーカーが主流だったスポンサーが、自動車やスポーツ用品メーカーに移り、カード会社やハイテク電子、パチンコ・ゲーム業者が新規参入。ゴルフトーナメントは日本経済の浮沈を反映してきた。

 スポンサー企業にとってゴルフトーナメントは広告イベントにほかならない。広告効果がないなら、冠スポンサーになる意味はないように思えるが、そんな単純な位置づけでもないようだ、と森さんは書いている。

 本書は「興亡史」となっているが、時系列での記述ではなく、冒頭に挙げたものを含む13のトーナメントのスポンサー企業ごとにその経緯を深掘りしている。そこには当該企業なりの戦略や思いもあり、広告イベントの一言では片付けられないものがあるようだ。

「ANA」で検索すると全米看護師協会

 ANAインスピレーションは全米女子ゴルフのメジャー大会。旧「クラフト・ナビスコ選手権」で知られる由緒あるトーナメントの冠スポンサー契約の話を全日本空輸(ANA)が検討し始めたのは2014年10月、翌年3月の開催の5カ月前だった。国内男子のANAオープンを44年もやっているので疑問視する向きも社内にあったが、決め手になったのはANAの米国における知名度の低さだった。欧米路線に進出していたにもかかわらず、インターネットで「ANA」と検索すると、全米看護師協会(American Nurses Association)しか出てこない、という笑い話のような事実があったという。

 男子のメジャー大会にはメインスポンサーの企業名はつかないが、女子では許されている。全米女子プロゴルフ協会(LPGA)ツアー開催地を、日本や中国、台湾、韓国、タイとアジアに広げていたことも追い風になった。米国のみならず、それらの国のアマチュアゴルファーへの浸透が期待される。米国・日本・アジアへの路線網拡充を進めるANAの海外戦略とも合致した。年間推定5億円の冠スポンサー費用は、同社の年間広告費用の1割に迫るものだったが、ほかのスポンサー契約を打ち切るなどして何とか捻出した。今年(2019年)で5回目、森さんは宣伝効果が表れるのはまだ先と見ているが、マーケティング戦略における新たな企業チャレンジと評価している。

銀行の吸収・合併の歴史が長い名称に

 三井住友VISA太平洋マスターズは、何とも長い名称だが、企業合併の歴史を表している。「太平洋クラブマスターズ」として1972年始まった大会は、米国の男子メジャー大会、マスターズを目指し、当時世界最高レベルの30万ドルという賞金総額を用意した。旧平和相互銀行オーナーの小宮山家がつくったゴルフ場群が太平洋クラブだ。創業者の死とともに血みどろの後継者争いが起こり、結局、旧平和相互銀行は住友銀行に吸収される。住友銀行の系列のカード会社「住友クレジットサービス(現・三井住友カード)」が冠スポンサーとして大会を継承。VISAの冠がつくようになり、さらに銀行の合併により、現在の長い名称になったという。

 しかし、大会事務局だった太平洋クラブは、ゴルフ場会員預託金償還問題から2012年に民事再生法の適用を申請、トーナメントの主催からはずれる。最終的にパチンコ大手のマルハンが270億円で、太平洋クラブの新株を引き受け倒産は回避され、太平洋クラブは主催者に復帰した。とは言え、トーナメントがVISAカードの名前の浸透に大きな役割を果たしたことは間違いないようだ。

 このほかにも三菱自動車が冠スポンサーになっていたダイヤモンドカップは、自動車不況で存続の危機を迎えたが、三菱グループの意志決定機関「金曜会」を率いる三菱商事の判断で存続。現在は「三菱」の冠をはずして関西テレビとともに三菱商事が主催していることや、かつて「毎日コミュニケーションズ」だった就職・転職情報サイト大手のマイナビが、社名を改め、マイナビABCチャンピオンシップを主催することで大きく知名度を上げたことなどが書かれている。

 今年10月には、アパレル通信販売のZOZOが新たな冠スポンサーとしてメジャートーナメントを開く。「ZOZOチャンピオンシップ」だ。米国の男子メジャー大会が日本で開かれるのは初めてで、賞金総額も11億円と国内大会とは桁違いだ。タイガー・ウッズらが出場を予定している。いろいろ話題の多い同社が、ゴルフトーナメントのスポンサーになるのも時代の象徴だろう。

 ゴルフ関連として、『世界標準のスイングが身につく科学的ゴルフ上達法』(講談社ブルーバックス)、『ゴルフは名言でうまくなる』(幻冬舎新書)を紹介済みだ。  
  • 書名 ゴルフトーナメントスポンサー興亡史
  • 監修・編集・著者名森功 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2019年7月30日
  • 定価本体840円+税
  • 判型・ページ数新書判・262ページ
  • ISBN9784344985667
 

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