読むべき本、見逃していない?

松井秀喜はなぜ巨人の監督をやらないのか

  • 書名 イチローの功と罪
  • 監修・編集・著者名野村克也 著
  • 出版社名宝島社
  • 出版年月日2019年7月10日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数新書判・221ページ
  • ISBN9784800295637

 2019年3月21日、電撃引退を表明したイチロー。プロ野球選手としての実力は誰もが認めるものの、その言動には常に賛否両論があった。野村克也が希代の天才・イチローを丸裸にし、その功罪についてあらゆる角度から斬りまくる――というのが本書『イチローの功と罪』 (宝島社新書)だ。

 野村さんの類書には、すでに本欄で紹介した『野村のイチロー論』(幻冬舎)がある。内容的にダブる部分も多いが、本書は「引退会見」を踏まえ、「指導者としての資質はあるか」というところに力点を置いているところが新しい。

「イチローは間違いなく天才だ」

 まず「功」から。これは辛口の野村さんもはっきり認める。要言すれば、「イチローは間違いなく天才だ」という一言に尽きるだろう。

 「日本のプロ野球の歴史上、走攻守すべて一流なのは、イチローだけといっていい。メジャーリーグでも走攻守すべてで一流だと認められた」
 「イチローの打撃には『穴』がない・・・基本的にどんな球でも打ち返してしまう」
 「イチローの打撃練習を見て何かを盗むのは難しい。独特の打ち方で、天才だから、凡人の参考にはならない」
 「イチローは最初から左投手も打ち崩していた。そういうところも天才だ」
 「ほとんどの選手は、変わることを恐れるが、イチローは向上心を持ち、もっと打ちたいと打撃フォームを変え続けた。これも超一流選手ならではである」

選手としての能力の高さには野村さんもカブトを脱ぐ。しかし、こう続ける。

 「ハッキリ言って私は、イチローのファンにはなれない。好きなタイプの選手ではないからだ。ちょっとした態度や仕草も、『俺は他の人とは違う』と人を見下しているように見える」

 ヤクルト監督時代に国内線の航空便で、すぐ近くに乗り合わせたのに挨拶されなかった、という話は前著でも書いている。そうした個人的な因縁だけではない。メジャーリーグでイチローが取材を受ける時の態度にも触れている。

 メジャーでは報道陣がロッカールームに入ることが可能で、どんな選手も試合後に取材を受ける。イチローはロッカーに向かって椅子に座ったままで、背後から記者が質問するというスタイル。要するに背中を向けてインタビューを受けるのだ。それも親しい記者2人が話を聞き、他の大勢の記者に伝えるという異例の取材パターンだ。これはマスコミ関係者の間では有名な話だ。野村さんはいう。

 「そんな選手は聞いたことがないし、私にはそんな失礼な発想は浮かばない。『自惚れるのもいいかげんにせい』と言ってやりたい。こういうところにも『自分は特別なんだ』と人を小ばかにした態度が出ている」

「間違った野球を教わった」

 結局のところ、イチローはよく言えば自分流を崩さない、悪く言えば自己中心主義ということか。野村さんはイチローが「四球」での出塁が極端に少なかったことに注目する。「ヒットを打ちたいから、多少のボール球なら手を出してファウルにしてしまう。まさに自分本位もいいところで、チームを完全に私物化している」。

 引退会見でイチローは、「(野球は)団体競技なんですけど、個人競技というところですかね。これが野球の面白いところだと思います。チームが勝てばそれでいいかというと、全然そんなことはないですね。個人として結果を残さないと、生きていくことはできないですよね」と語った。

 野村さんは「これは、わからないことではないが、外野手らしい発想といえる。捕手をやれば、そんなことは考えられない。若手の時に間違った教育をうけてしまい、間違った野球を教わったとしか言いようがない」「弱いチームにいると、個人記録に走りがちになる」と批判している。

 キャッチャーとして毎試合、投手に100~150球のサインを出し、全体を見渡しながら守備に就く立場と、下手したら一度も捕球することなく試合を終えることもある外野手との決定的な違い。加えて、野村さんは、オリックスという弱いチームで若くして花形になり、仰木彬監督に甘やかされる形になった、と繰り返す。

「監督をやらなければダメだ」

 引退会見ではイチロー自身が、「人望がないから監督はできない」という趣旨のことを語った。本当のところはどうなのか。引退後のイチローは、マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターに就いた。コーチのようなこともやっている。野村さんは「こういう光景を見ると『本当は監督をやりたいんじゃないのか?』と思わずにはいられない」といぶかる。

 日本のプロ野球界はこのところ監督が人材難。「この人に監督をやらせたい」「監督になったら面白い」と思うような人が見当たらない。「これでは日本のプロ野球のレベルは下がっていくばかり。イチローはプロ野球の将来のために、監督をやらなければダメだ。イチローが監督になったらどんな野球をやるのか見てみたい。想像もつかないから、興味がある」とエールを送る。

 本書では多数のプロ野球人にまつわるエピソードや人物月旦が登場する。野村さんが特に称賛するのが松井秀喜だ。巨人の4番を打った打者として、絶対に失敗できないというプレッシャーがあったが、メジャーで成功した。オリックス出身のイチローとは大きく違う、と強調する。しかも性格は正反対。「リーダーとしての器の大きさがある」「イチローと違って謙虚な松井は、監督ができると思う」。

 しかし巨人の元オーナー、読売新聞の渡邉恒雄主筆は、イチローが大のお気に入りだそうだ。ラジオ番組に出演した時、「松井とイチロー、巨人に迎えるなら、どちらか?」と聞かれ「僕はイチロー君」と即答したという話が紹介されている。

 この話から逆に、松井がなぜ巨人の監督にならないのか理由が分かった気がした。

 本書は野村さんの単なるボヤキ、やっかみか。それとも、球界のご意見番の「遺言」か。読み方は立場によって異なるだろうが、一般の読者には参考になる。本欄では、『証言 イチロー 「孤高の天才」の素顔と生き様』(宝島社)も紹介している。

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