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「チョッコレート」から「夜明けのスキャット」が生まれた

  • 書名 明日へのスキャット
  • 監修・編集・著者名由紀さおり 著
  • 出版社名集英社
  • 出版年月日2019年7月25日
  • 定価本体1389円+税
  • 判型・ページ数四六判・172ページ
  • ISBN9784083331572

 浮き沈みの激しい芸能界で、歌手として長年現役で歌い続け、しかも人気を維持するのは大変だ。由紀さおりさん(1948~)はそうした稀有な歌手の1人。このほど著書『明日へのスキャット』(集英社)を出版し、半世紀を超える歌手生活を振り返った。日経新聞の「私の履歴書」にでも初出したものをまとめたのかなと思ったが、そうではなく、書き下ろし(語り下し)のようだ。

いつもぶっつけ本番

 由紀さんといえば、いずみたく作曲の大ヒット曲「夜明けのスキャット」。この曲で実質的にデビューして50年になることを記念した出版だという。本書はまずその当時の話から始まる。

 7歳年長の姉、安田祥子さんの活躍に触発され、子どものころから童謡歌手「安田章子」として活動していた由紀さんだが、ソロ歌手となってからはヒットに恵まれなかった。もっぱらCM歌手として活動していたという。「チョッコレート、チョッコレート、チョコレートはめ・い・じ」などを歌っていた。ところが人生はどういう縁があるかわからない。この「チョッコレート」がきっかけになって「夜明けのスキャット」が生まれたというのだ。

 というのは、この「チョッコレート」のCMソングや、明治(当時は明治製菓)が一社提供しているラジオ番組「夜のバラード」の音楽を担当していたのが、いずみさんだった。

 ある日、いずみさんから「夜のバラード」のテーマソングを歌わないかと誘いを受ける。「チョッコレート」が取り持った縁だった。このテーマソングが、やがて「夜明けのスキャット」として大ヒットすることになるのだ。

 いずみさんはすでに、岸洋子さんの「夜明けのうた」、坂本九さんの「見上げてごらん夜の星を」、佐良直美さんの「世界は二人のために」、ピンキーとキラーズの「恋の季節」などのメガヒットを飛ばしており、あちこちから引っ張りだこで大忙し。由紀さんは当時いずみさんと50曲ほどCMソングを録音していたが、いつもぶっつけ本番だった。

 「夜明けのスキャット」も同じだった。遅れてスタジオ入りしたいずみさんが走り書きで楽譜を書いて渡した。

 「このメロディなんだけど、これに好きなように言葉をつけて歌ってみて」

問い合わせのハガキで段ボール二箱

 普通なら絶句してしまうところだが、ここからが由紀さんのすごさだ。「ヴォカリーズ」(母音のみによって歌う歌唱法)でトライしたのだ。

 最初のところは、低い音で始まるマイナーなメロディ。くぐもった「ルー」で歌い出した。番組が始まる深夜の時間をイメージした。次のフレーズは同じようなメロディでも、だんだん朝に向かっていくから「ラー」で少し明るめに。そしてサビの部分は朝日が輝き始めたような輝きを破裂音の「パ」で。次の4小節はため息のような「ア」、最後「ルー」。

 歌い終わると、いずみさんはあっさりOKを出した。「いいんじゃない? これで行こう」。そして実際に番組で放送すると、問い合わせが殺到する。「誰が歌っているんですか?」「有名な曲の一部でしょうか?」。

 問い合わせのハガキで段ボール二箱が埋まった。すぐにレコード化が決まり、「1番はこのままで。2番は哲学的な歌詞を」と、いずみさん。山上路夫さんが2番の作詞を担当し、「由紀さおり」という芸名もこのとき決まった。

 こうして紅白単独出場13回、姉の安田祥子さんとのデュエットでも10回という由紀さおりさんの歌手人生が始まる。本書ではこのころ早くも結婚、のち離婚したことも明かされている。

「永遠の澄んだ声、白い肌」

 由紀さんの父は古河財閥系のエンジニア、母は軍人の娘。疎開先の群馬県で生まれたが、ほどなく東京に移った。

 まず姉が「ひばり児童合唱団」で頭角を現す。ソロで歌い、少女雑誌にも登場する。その後を由紀さんが追う。姉は東京芸大に入って本格派の道を選び、由紀さんは迷いながらもプロ歌手を目指した。姉はそのまま大学院を出ている。兄は東京工大からマサチューセッツ工科大に進んだというから、かなりのインテリ一家だったようだ。

 本書ではそうした生育環境もあるのか、由紀さんの「理論派」ぶりが随所に出てくる。いかにして「声」を維持するか。詳しくは本書を読んでいただくとして、後輩の歌手がよく楽屋に訪ねて来るという。「由紀さん、今でもその声出せるって、なにしてるの?」「どうやったらきれいな声が保てますか?」。

 由紀さんは書いている。「夜明けのスキャットだって、コンサートの一番最初から歌うのはちょっとキツいんです。この歌は、しばらく歌って喉があたたまったころに歌うようにしています」

 本書の133ページには姉と一緒に撮った冬の写真が掲載されている。二人ともマスク姿で着ぶくれ。「これもすべて、『歌えるからだ』をキープするため」「のどを守るため首もとにスカーフは欠かせません」というキャプションが付いている。

 本書は由紀さんの歌手人生の回想録としてはもちろん、「永遠の澄んだ声、白い肌」の秘密に迫るボディケア本としても興味が尽きない。

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