読むべき本、見逃していない?

犯罪捜査で「毒針を持つエイ」が活躍している!

  • 書名 犯罪「事前」捜査
  • サブタイトル知られざる米国警察当局の技術
  • 監修・編集・著者名一田和樹、江添佳代子 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2017年8月10日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・248ページ
  • ISBN9784040821474

 犯罪捜査というのは、一般には事件を察知してからスタートする。ところが本書『犯罪「事前」捜査――知られざる米国警察当局の技術』(角川新書)は、タイトルからもわかるように「事前」の捜査のことを扱っている。もっとも、日本の話ではなく副題にあるようにアメリカを舞台にしている。手法としてはIT(情報技術)を使ったものなので、世界各国が簡単に応用ができる。やがて日本にも導入される可能性もある。本書は2年前の刊行だから、すでに導入されているかもしれない。

世界レベルの最新知識

 本書は一田和樹さんと江添佳代子さんの共著だ。一田さんは作家。コンピュータ犯罪などをテーマとしたミステリー小説を主に執筆している。それ以前は経営コンサルタント会社の社長や、IT企業の常務もしていた。そうした経験をもとに2013年に『サイバーセキュリティ読本』(原書房)、18年には本欄でも紹介した『フェイクニュース』(角川新書)を出している。

 江添さんは翻訳家でフリーライター。英国のITメディアのネットセキュリティ関係ニュースの翻訳を担当、日本のウェブメディアでサイバーセキュリティ関連記事も書いている。やはり本欄で紹介した『闇ウェブ』(文春新書) の共著者でもある。

 一田さんは長くカナダに住んでおり、二人とも海外のネット事情に詳しい。一田さんの『フェイクニュース』は国家機関もフェイクニュースにかかわっていることを指摘、各方面で評価が高かった。江添さんの『闇ウェブ』も、ネットの奥深くに潜む国際的な犯罪者たちをあぶりだしていた。本書ではそうした二人の世界レベルの豊富な知識が披露されている。

 本書は以下の構成になっている。

 「第一章 ボルチモアの暴動で明らかになった最新捜査技法」
 「第二章 携帯電話の基地局になりすます『モバイル監視』の捜査とは」
 「第三章 最強の盗聴組織とやられっぱなしのSNS」
 「第四章 ダークウェブの児童虐待サイトに捜査のメスを入れることは可能か?」
 「第五章 犯罪やテロを防ぐ事前捜査社会」

ワンセット4000万円

 ネット社会化が先行したアメリカでは、犯罪捜査でもITが公然非公然を問わず使われているであろうことは想像がつく。

 特に興味深かったのは「第二章」だ。「スティングレイ」という手法が捜査当局によってこっそり使われていたことが紹介されていた。辞書で引くと、「毒針を持つエイ」のことらしい。名称からも鋭く怖い感じが漂う。

 どういうものかというと、「携帯端末の追跡と盗聴を可能にする装置」。ある時間帯に、あるエリアに存在する携帯電話だけを対象に情報収集ができるという。もともとは軍事用に開発され、それがいつの間にか捜査当局でも使われているらしい。今では民間企業から「商品」として販売されており、標準タイプで約13万5千ドル(約1350万円)、いろいろオプションを付けると約4000万円になる。基本的には車両に搭載して運ぶものだが、アタッシュケースほどの小型版もあるという。

 本書にはその詳しい仕組みも書かれている。これがあれば、麻薬密売地区での犯罪捜査などに役立つだろう。「特定の携帯電話だけの盗聴」「標的の現在地の追跡」なども可能らしい。しかも通信事業者に知らせずに使えるようだ。テロ組織の関係者などのマークでも威力を発揮しそうだ。

「天才的な詐欺師」が暴露

 ここから先がいかにもアメリカらしい、と思ったのだが、秘匿されていたこの装置の使用が明るみに出たのは、「天才的な詐欺師」の裁判の中だった。その男の名はダニエル・リグメイデン。16歳のときに、「この社会の一員として生きることは止める」と決意、それから自分自身を証明するものをすべて偽造した。

 偽の出生証明書、偽の社会保障番号カード、偽の運転免許証・・・自分のアイデンティティをすべて偽造し、誰かに成りすまして銀行口座を開設、部屋を借り、買い物をする。虚偽の納税申告で払戻金まで受け取っていた。そしてある日、27歳のダニエルはついに警察に捕まるのだが、普段から用心に用心を重ねていた彼はなぜアシがついたのか、それがわからなかった。

 刑務所に入ってから、図書室に入り浸って研究、「スティングレイ」に引っかかったのではないかと確信する。そして2012年10月、「私の逮捕につながった情報は合法的に得られたものではない」と主張、ついに「スティングレイ」の存在と利用が暴露されたというわけだ。

 この事件の結末は、本書で読んでいただくとして、その後に明らかになった関連情報がいくつか出ている。英国やカナダでもスティングレイの導入や利用が確認されていること、FBIと米連邦保安官が類似装置を搭載した航空機を日常的に飛行させていること、米司法省が310台、国土安全保障省が124台を購入していることなどなど。

 「スティングレイ」でも明らかなように、米国では犯罪情報収集に多数の民間企業が参画しているという。IT技術で捜査当局を補完する分野のビジネスが活況らしい。彼らの多くは、米軍との関わりも深い。そのあたりも本書では多数紹介されている。知らないうちに個人情報が筒抜けになる監視社会。最後に日本警察や日本社会の課題にも触れられている。本書を通して、やがて日本でも起きうること(すでに起きているかもしれないこと)を学んでおくことは有意義だろう。

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