読むべき本、見逃していない?

「象牙の密売」、日本への風当たり強まる

  • 書名
  • サブタイトルアフリカゾウの「密猟組織」を追って
  • 監修・編集・著者名三浦英之 著
  • 出版社名小学館
  • 出版年月日2019年5月 8日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・245ページ
  • ISBN9784093886949

 本書『牙――アフリカゾウの「密猟組織」を追って』(小学館)の著者、三浦英之さんは朝日新聞のエース記者の一人として知られている。いわゆる特ダネ記者ではないが、次々に発表する「国際ルポ」が異彩を放ち、マスコミ界で高く評価されているのだ。

 2015年に出版した『五色の虹――満州建国大学卒業生たちの戦後』 (集英社)で第13回開高健ノンフィクション賞。18年の共著『日報隠蔽――南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(集英社)で第18回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」。そして本作ではすでに第25回「小学館ノンフィクション大賞」を受賞している。

「記者クラブ記者」とはまったく違う

 三浦さんのユニークなところは全国紙に属しながらも、「ルポライター」とも称していることだ。各作品とも、記者としての情報収集活動がベースになっているものの、単行本として出版するにあたっては、独立したノンフィクションとして刊行している。『日報隠蔽』の場合は、フリーのライターとの共著だ。いわゆる「記者クラブ記者」とはまったく違う取材執筆行動を続けている。

 本書は、過去に勤務したアフリカ特派員時代の経験をベースに、アフリカにおける象牙の密売に迫ったものだ。アフリカでは、象牙を密売するために象が殺され、次第に頭数が減っている、というぐらいのことは大方の読者もぼんやりと知っているに違いない。では誰が象を殺し、象牙を密売しているのか。その象牙を大量に買っているのは誰か。アフリカの国々はどんな対策を立てているのか。このあたりまで踏み込んでいくと、次第にぼやけてしまう人が多いのではないだろうか。

 とにかく、「アフリカ」は余りに日本から遠い。「象牙」も大方の日本人とは縁が薄い。だが、本書の終盤になって、実は日本とも関係が深いことが浮かび上がる。日本人としてこの問題にどう向き合うのか、問い詰められる。それが「審査員の満場一致」で本書が「小学館ノンフィクション大賞」を受賞した理由であり、アマゾンの読者評価でほとんどの人が「星5つ」を付けている所以だろう。

「サタオの死」

 著者は野山を駆け巡って少年時代を過ごしたという。そして、自然と人間のかかわりに漠然と興味を抱きながら、京都大学の大学院では「人間環境学」を専攻。もし特派員としてアフリカに派遣されたなら野生動物と人間社会とのかかわりを――あるいはその偉大な野生動物の終焉の可能性を――自分の目でしっかり見たいと思っていたという。

 著者に大きなショックを与えたのは、「サタオの死」だった。2014年5月、ケニア東部の国立公園に生息していた世界的にも突出した牙をもつ人気ゾウ「サタオ」が何者かに殺された。遺体はあまりにも無残だった。推定100キロと言われた二本の象牙は、顔面をえぐってチェーンソーのようなもので切り取られていた。顔の半分がない。世界中に配信された報道写真を見た三浦さんは、「人間はなぜここまでむごいことができるのか」と、しばらく冷静に物事を考えることができなかったという。

 アフリカでは長年、象の密猟が続いていた。1940年代には500万頭いたというアフリカゾウは2010年には既に50万頭まで激減、10年代に入ってさらに加速、年に3万頭が密猟され、あと10数年で野生の象は絶滅すると言われるまでになった。三浦さんが特派員としてアフリカに赴任したのは、ちょうどそんな象が絶滅に向かう最終局面だった。

取り残された国

 この取材には常に命の危険がつきまとった。何しろ相手は、違法を承知で長年、広範囲に国際的な悪事を働いている連中だ。これまでに象牙の密猟者にインタビューしたメディアは少なくないが、背後に控える巨大な象牙シンジケートに迫ったものはない。さすがの三浦さんも躊躇した。

 その背中を押したのは、朝日新聞ナイロビ支局で長年優秀な取材助手を務めるマサイ族出身のレオン氏だった。この取材は絶対やるべきだと引かなかった。自身の取材ネットワークをたぐりながら、闇世界に近づき、三浦さんと二人で「キング」や「象牙女王」「Rと呼ばれる男」に迫っていく。

 単純に言えば、近年の象牙ブームは、中国が震源地だ。中国の金持ちが象牙を欲しがって乱獲が進み、価格も高騰した。アフリカ側の取締当局や政府高官は「中国マネーのワイロ攻勢」にどっぷりつかっていたとされる。

 ところが本書は最終盤に意外な展開を見せる。中国が突然、「野生動物保護」に転換したのだ。野生動植物の国際取引を規制する16年9月の第17回ワシントン条約締約国会議で、すべての市場が密猟、違法取引の原因になっているとして、象牙取引の全国内市場の閉鎖を主張した。会場にはどよめきが広がったが、そこで取り残された国は――。

 小学館ノンフィクション大賞の選考委員の1人、作家の三浦しをん氏は、「私は、今後も象牙の印鑑は絶対作らないぞと決意した」とコメントを寄せている。

国内市場の継続を訴えるが・・・

 本稿を以上まで書いたところで、新しい動きが飛び込んできた。19年8月21日から始まったワシントン条約締約国会議の象牙取引に関する議論で、日本への国際的な圧力が一段と強まっているというのだ。

 朝日新聞によると、前回16年の会議の決議よりもさらに踏み込み、象牙消費国のすべての市場を閉鎖、取引不能にする決議案が、アフリカ諸国から提案されたという。最大の密輸入国と言われた中国は既に17年末に国内の製造・取引を禁止している。日本は「違法取引に関与していない」と主張し、国内市場の継続を訴えてきたが、議案では、日本から中国へ違法輸出されている可能性などが指摘されているという。

 日本では全形を保つ象牙の登録制度が1995年から行われ、これまでに3万本以上が輸入されている。今年7月から要件が厳格化されたとたん、激減し、昨年の2616本から今年7月以降はたったの3本にとどまっている。本書が刊行され、「小学館ノンフィクション大賞」を受賞したことの影響があったのかもしれない。

 アフリカゾウの保護問題に詳しい坂元雅行弁護士は、朝日新聞の記事で「市場の完全閉鎖への鍵になるのは日本だという世界各国の認識ができた」とコメントしている。

 J-CASTニュースでは本書の著者関連で「『日報隠蔽』の著者に聞く(上)」「『日報隠蔽』の著者に聞く」(下)なども掲載している。

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