読むべき本、見逃していない?

ネットで誰でも簡単に「義勇兵」になれる

  • 書名 「いいね! 」戦争
  • サブタイトル兵器化するソーシャルメディア
  • 監修・編集・著者名P・W・シンガー 、エマーソン・T・ブルッキング 著、小林 由香利 訳
  • 出版社名NHK出版
  • 出版年月日2019年6月20日
  • 定価2400円+税
  • 判型・ページ数四六判・448ページ
  • ISBN9784140817797

 欧米のノンフィクションには、たまげることが多い。日本の類書とはレベルが違う、と敬服してしまう。本書『「いいね! 」戦争――兵器化するソーシャルメディア』(NHK出版)でもその思いを強くした。何しろ取材は5年がかり。膨大な資料に取り組み、軍事・外交、情報機関の関係者に会い、オフラインの戦闘にも飛び込んだという。

「デジタル移民」と「デジタルネイティブ」の共著

 著者のP・W・シンガーさんは米国ブルッキングス研究所の上級研究員。国防総省、国務省、CIAの顧問なども務める。『ロボット兵士の戦争』『戦争請負会社』『子ども兵の戦争』(いずれもNHK出版)などが邦訳されている。過去の著者経歴によると、1997年プリンストン大学卒業、ハーバード大学で政治学博士号を取得。

 共著者のエマーソン・T・ブルッキングさんは紛争及びソーシャルメディアのエキスパート。米外交問題評議会リサーチフェロー。

 本書は「デジタル移民(大人になってからデジタルを勉強)」と「デジタルネイティブ」のコンビによる共著だという。おそらく前者がシンガーさん、後者がブルッキングさんだろう。

 本書はアメリカ大統領選挙やイスラム国など、世界的にもよく知られた話を導入にしながら展開されていく。劣勢だったトランプ氏や、人数的には少数だったISISがいかに巧みにネットを使ったかなどを伝える。さらにシカゴのストリート・ギャング団の闘いでも今やネットが不可欠になっていることなども引き合いに出される。「世界で最も影響力のある国家から、最も小規模な炎上合戦の戦闘員まで、現在の戦士は全員・・・戦争において、ソーシャルメディアを兵器に変えてきた」と解説する。

YouTubeに動画がアップ

 多数の具体例が登場するが、一つだけ紹介しておこう。イスラエルと、パレスチナの戦いだ。延々と続く日本人には余り実感のない中東戦争の現況だ。ここではイスラエル国防軍(IDF)と、ガザ地区を支配するイスラム原理主義組織「ハマス」の報道官がそれぞれのツイッターでもやりあっている。

 2012年11月14日、ハマスの軍事部門の指導者アフマド・ジャアバリは護衛とともにガザの住宅街を車で移動中、イスラエル軍の無人偵察機に見つかり、ミサイルで襲撃された。即死と思われる。

 パレスチナの片すみで起きたこの戦闘は、間もなく、何百万人もが目撃することになる。まだ遺体がくすぶっているうちにイスラエル軍のツイッターが「抹殺」を宣言、YouTubeに動画がアップされたからだ。怒り心頭のハマスも早速ツイッターで応じた。「おまえたちは自ら地獄の門を開いたのだ」と報復を宣言する。

 本書によれば、今ではどんな紛争にも「三つの前線」が存在するという。一つは「物理的戦線」。もう一つは「サイバー戦」。イスラエルとパレスチナの戦いで言えば、ここまではイスラエルが圧倒的に有利だ。ところが三つ目の前線「ソーシャルネットワーク戦」はちょっと厄介だ。

 「爆弾で完全に破壊された建物」「死んだ子どもたち」「泣いている父親たち」。これらパレスチナ市民の苦境を伝える情報がソーシャルメディアで世界各地の人びとに伝わると、情勢に変化が生まれる。

ロシアにいた「アメリカ政府の高官」

 アメリカン大学のトーマス・ジーツォフ准教授の研究結果が掲載されている。何十万ものツイートをもとに紛争中の8日間について時間ごとの戦闘と国際世論の変化を調べた。ネット上でハマスへの共感が急増すると、イスラエル軍は空爆を半分以下に減らし、逆にプロパガンダを2倍以上に増やしていた。イスラエルの政治家や軍の幹部は、ひたすら戦場の地図を眺めていたのではなく、ツイッターのタイムライン、つまりSNSの戦場にも目を光らせていたことが分かったのだ。

 この研究は、戦争では、今やソーシャルメディアを通して、いかにして国際世論を制するか、という側面がきわめて重要になっていることを見せつけていた。これは何も実際の戦争のみならず、様々な国家間、民族間の確執についても言えることだろう。どちらが「いいね!」を多く獲得するか。まさにソーシャルメディアが「兵器化」しているのだ。

 本書の「解説」で作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏は書いている。

 「新種の戦争は、PCがあれば、状況によってはスマートフォンさえあれば誰でも参戦できる。実際に国家の意思から独立して、多数の『義勇兵』がこの戦争に参加している」

 確かに本物の戦争でなくても、些細なことでかっとなり、気分の上では「義勇兵」になっているネットユーザーは少なくないのではないか。

 本書の著者たちが、ちょっとした余話を書いている。実際にネットの「戦い」に参加したりしていたら、「アメリカ政府高官」から「友だち」申請があったという。調べてみたら、それは「実在しない高官」だった。しかも、ワシントンではなくロシアのサンクトペテルブルクから操られていた--。これは一種の「サイバー戦」「心理戦」というところか。「お前たちの調査活動は把握しているよ」というアナウンスだったのだろう。

 関連で本欄では『サイバー完全兵器』(朝日新聞出版)、 『天井のない監獄――ガザの声を聴け! 』(集英社新書)、『フェイクニュース――新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)なども紹介している。

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