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ブロックチェーンを支える技術、そしてその問題点とは?

ブロックチェーン

 暗号資産(仮想通貨)という言葉が巷にあふれている。でもそれを支えるブロックチェーンという技術がどういうものか、知っている人は少ないはずだ。本書『ブロックチェーン』(講談社ブルーバックス、岡嶋裕史著)はブロックチェーンを初心者にわかりやすく解説することを目指している。

 著者は中央大学国際情報学部教授で、情報ネットワークや情報セキュリティの専門家。NHK Eテレの「趣味どきっ!」という教養番組で、初心者向けにスマホの使い方などを解説していたのを見ていた人もいるだろう。本書は、著者が情報技術の専門家として書いた入門書だ。

暗号資産関連では近年、事件が続発している

 門外漢にとって、暗号資産はスキャンダルにまみれているという印象が強い。2014年に世間を騒がしたマウントゴックス事件では「85万ビットコイン(当時のレートで約500億円)が失われた」。これは関係者による不正だったという。そして2018年1月にはコインチェック社が客から預かっていた「暗号資産を派手に(ほぼ100%)流出させてしまったのである。(中略)500億円以上が他人の口座に移されてしまった」。

 こういう話を聞くと頭が混乱してくる。それまで暗号資産はブロックチェーンという安全で確実な技術に裏づけられていると宣伝されていたのになぜ、こうしたとんでもないトラブルが起き、大金が消えてしまうのか?

 ブロックチェーン技術の根幹をなすのは「ハッシュ」と呼ばれる関数だ。これは「もとのデータから特定のサイズの別のデータを、計算によって作ること」だ。ハッシュ関数にもとのデータを入れると、それがどれほど長いものであっても、出てきたハッシュ値は決められた同じ長さになる。たとえば16進数の40桁でハッシュ値を出力するというハッシュ関数では1文字を入力しても、数百文字を入力しても出力は40桁になる。本書では著者が好きだという太宰治の「人間失格」の冒頭400字ほどの文字列が例にとられている。

 ハッシュ値には、「もとデータが1文字でも変更されていると、そこから導かれるハッシュ値は、もとデータが変更される前と全然違ったものになる」という性質がある。人間ならすぐに見過ごしてしまう、ささいな変化を決して見過ごさない優れた性質がデータの改ざん防止に役立つわけだ。

 著者はブロックチェーンの特徴として、(1)分散型データベース、(2)非中央集権型、(3)書き込み専用・改ざん困難という3つを挙げている。ハッシュ値の計算についても読者が実際に自分のパソコンで体験できるよう具体的な実例が出ているのは親切だ。だが、そこまでは必要ないという人にはややわずらわしく感じられるかもしれない。

マイニングに使う電力が家庭の電力消費を上回る国も

 こうした技術的な解説は技術専門書にはさらに詳しく載っている。その意味で本書の最大の特徴は、新書という簡潔なボリュームながらブロックチェーンの持つ課題や問題点についてもきちんと触れているところだろう。

 「まず取り上げたいのは、ブロックチェーンが生成され、流通するプロセスの無駄の多さである」。マイニング(採掘)というのは面倒な計算をすることによって、ビットコインを掘り出していく作業だ。ちなみにマイニングをする人はマイナー(採掘者)と呼ばれる。

 マイニングの盛んなアイスランドでは2018年に「『ビットコインのマイニングに使われる電力量が、一般家庭全体で消費される電力量を上回った』と報道された」そうだ。アイスランドは水力発電と地熱発電ですべての電力をまかなっているので、石油や石炭など化石資源を消費したわけではないが、それでも資源の無駄遣いという批判は出るだろう。世界的にも2018年5月には、「マイニングによる電力消費が、2018年末には世界の電力消費の0.5%に達する」という予測が出されたそうだ。著者は「マイニングのために繰り返される計算は、今のところ何の役にも立っていない。チェーンにブロックを追加する権利と、そこで得られる報酬のために、他の何にも活用しようのない無意味な計算が消費されている」と冷静に書いている。

 暗号資産を支えるブロックチェーン技術を冷静に見つめ、わかりやすく解説した好著だ。だが、評者の印象では本書はやはり技術寄りの本なので、暗号資産の全体像をてっとり早く知るには数学科出身の経済学者による『暗号通貨の経済学』(講談社選書メチエ、小島寛之著)の方がわかりやすいかもしれない。本書と併読してみるのもお勧めだ。

 本欄では関連で『闇ウェブ』 (文春新書)、『ブロックチェーンという世界革命』(河出書房新社)なども紹介している。

BOOKウォッチ編集部 レオナルド)

  • 書名 ブロックチェーン
  • サブタイトル相互不信が実現する新しいセキュリティ
  • 監修・編集・著者名岡嶋裕史 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2019年1月20日
  • 定価本体1000円+税
  • 判型・ページ数新書判・247ページ
  • ISBN9784065144350
 

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