読むべき本、見逃していない?

『誰でもすぐに戦力になれる未来食堂で働きませんか』を出口治明氏に聞く

  • 書名 誰でもすぐに戦力になれる未来食堂で働きませんか
  • サブタイトルゆるいつながりで最強のチームをつくる
  • 監修・編集・著者名小林せかい
  • 出版社名祥伝社
  • 出版年月日2019年3月10日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判ソフトカバー
  • ISBN9784396616830
  • CコードC0095
【内容紹介】 東京・神田神保町にある、カウンター12席だけの定食屋「未来食堂」。1度来店した人なら誰でも50分のお手伝いで1食無料になる「まかない」をはじめ、ユニークで超合理的な仕組みが、話題に。未来食堂の事例とともに、組織・チーム・人の動かし方を考察。

出口治明さん「丁寧に読めば、ビジネス書10冊分くらいの価値が十分ある一冊」


立命館アジア太平洋大学(APU)学長 出口治明さんに『誰でもすぐに戦力になれる未来食堂で働きませんか』の感想をお聞きしました。

一番大切なのは「何のために仕事をするのか」を考え抜くこと
ビジネスにとって一番大切なことは、どんなことであっても腹落ちするまで自分の頭で一つ一つ考えていく、その訓練をすることです。これが、いい仕事をするコツです。どんな仕事でも唯一共通するのは「目的が大事である」ということ。「何のためにこの仕事をするのか」を自分の頭で考え、腹落ちしたら、あとは、何をすべきかという「解」が自然に出てきます。 そういう意味でおすすめしたいのが、小林せかいさんの新しい著書『誰でもすぐに戦力になれる未来食堂で働きませんか』です。 世の中にあふれている、他愛もない根拠なき精神論が書かれたビジネス書よりも、この著者の本は、本当の意味でのビジネス書です。組織であっても個人であってもすぐに役立つ考え方がきっちりと整理されています。

たとえば、目次を見てください。この目次を見るだけでも、著者がどこまで細部にわたり考え抜いて仕事をしているのが、伝わってくる。
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この目次がいいのは、考え方が矢印で示され、選択肢になっている点です。 人間の人生は毎日無数のイエスノーの選択の集積から成り立っていますよね。たとえば、外にお昼を食べにいくという選択をする。そこで誰かに会う、そのときに名刺を交換するか、しないか。このように最初は一緒だったのに、どんどん離れていく。これは人生の選択だけではなく、思考も同様です。考え方も場合分けしていくと頭が整理されていく。 目次の体裁なんて、普通はそこまで考えないものです。それを目次は「何のために」あるのかを考え、出した「解」が、こういうちょっと変わった目次スタイルであったわけです。目次は一例ですが、本書は、腹落ちするまで考えたことを形にする具体例にあふれている。丁寧に読めば、古典と同じように、ビジネス書10冊分くらいの価値が十分あると思います。

マネジメントとは、意識を変えることではない
さらに特筆すべきは、この著者のリアリズムです。 とかく意見の甘い人は、前提を詰めない。たとえば、いい人はいっぱいいるとか、人の善意に頼ればいいというように、あいまいなまま事を進めようとする。しかし、この本の著者は、はっきりと「人は欲である」「人は自尊心である」と、言い切っている。そのとおりです。人間や社会に対して考え抜いているので、甘い幻想がない。リアルに人間存在を洞察した上で、自分の考えを組み立てているので説得力がある。 よく、「社員の意識を変えて無駄な会議をなくしましょう」と、そんな訓示を垂れているような管理者がいますが、こういう管理者は即刻クビにすべきでしょう。 僕なら、会議室は即刻半分にしてしまいます。月曜日に来たら会議室があらへん、という環境をつくるのです。そうすれば、そこではじめてどうしようかを考えるようになる。管理者の仕事とは、意識を変えることではありません。仕組みを上手につくって意識が変わらざるをえないようにする、それがマネジメントです。そのためには、欲や自尊心や快楽といった、人間の本質に向き合わなければなりません。

ビジネスで役立つ3つの視点
そのほかに、本書のなかで印象に残った点をあげてみましょう。 1つ目は、やはり「誰でも戦力になれる仕組み」づくりです。優秀な人ばかりがいたら仕事は楽ですけれど、そんな人はそういるわけではない。普通の人なら、「あ、そう」と思うようなことを、著者は仕組みづくりに落とし込んでいる。こういう視点は、ビジネスで大いに参考になります。 2つ目は、モチベーションを潰さない、という指摘です。 だいたい人間は、大したモチベーションなんて持っていないと思ったほうがいいんですよ。人それぞれにみんなモチベーションは持っているけれど、それほど高いものではないので、誰かから「あかん」とか「違う」とか言われたとたんに、たやすく消えてしまうんです。 だから、人を育てようと思ったら、どんな人であっても絶対につぶしてはいけない。組織でダメなのは、一度つぶしてから鍛え直そうとかいう発想。鍛え直すどころか、一度壊れたものは元には戻らないのです。 3つ目は、「有限」という視点ですね。善意も意欲も能力も体力も時間も、すべて有限。この有限という考え方はものすごく大事なものです。いちばんまずいのは無限大の考え方。頑張ればなんとかなるとか、長時間やればよくなるとかいうのは、根本から間違えています。 こういった意味では、この本は、特にビジネスパーソンに読んで欲しい。あるいは人事担当の人とか、人事部長とか、役員とか。そして、根拠なき精神論を深く反省して欲しいと思います(笑)。

これからのキーワードは「ゆるいつながり」
本書のサブタイトルに「ゆるいつながりで最強のチームをつくる」とあるように、この「ゆるいつながり」は、これからの時代のキーワードの一つになっていくんじゃないかと思います。 アメリカの社会学者、ロバート・D・パットナムは、『われらの子ども 米国における機会格差の拡大』という著書の中で、"ゆるいつながり"が人生を豊かにすると書いています。たとえば、弁護士の知り合いがいたら、ちょっと困ったことがあったときに聞くことができるし、お医者さんの知り合いがいたら病気になったときに聞くことができますよね。 富裕層の人たちはそうした"ゆるいつながり"を、いろいろな分野のいろいろな人たちと持つことができるというわけです。僕はパットナムの本を読んで、なるほどと思いましたが、せかいさんのこの本を読んで、"ゆるいつながり"にはもっと深い意味があることに気づかされました。ゆるいつながりがあることで助けてもらうことができる、一緒に何かをつくり、一人を乗り越えていくことができる、と。

「縦」と「横」のリーダーシップのすべてが書かれている
本書では、そういうゆるいつながりの組織があって、相手がいて、自分がいて、そしてみんなを巻き込む、と、ロジカルに、組織論/チーム論/リーダー論が展開されていきます。 リーダーシップにはいろいろなリーダーシップがある。上下のリーダーシップのほかにも、フォロワー同士でフラットな関係でみんなを巻き込むというのもリーダーシップなのです。 この本は、縦と横のリーダーシップがすべて書かれている、そのようにまとめてもいいでしょう。

【書き手:祥伝社書籍編集部 話し手:出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)】

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