「大隈重信　上下」　伊藤之雄著

大隈重信は、その高い知名度に反して、全体像があまり知られていない存在だ。それは幕末の志士、官僚、政治家、言論人、早稲田大学初代総長などあまりに多面的な顔を持つからでもあろう。本書は、その全貌を上下巻で描き出す試みだ。

1838年に佐賀に生まれ、幕末維新期にたちまち頭角を現した彼は、立憲改進党を率い、藩閥政治と対峙（たいじ）。そして98年には念願の総理大臣に就任する。しかし、自身の内閣はわずか数カ月で倒れ、その後は政治的に雌伏の時を過ごした。その間もめげずに教育者・言論人として活動し、ポピュリズム的手法を用いて広汎な支持を集めた。さらに1914年には2度目の組閣を行い、第1次世界大戦という難局に向き合うこととなる。

22年に亡くなった際は、「100万人」が葬儀に足を運んだとされる。2冊を通して、この「巨人」の軌跡と魅力が見えてくるだろう。