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"逆境を乗り越えるための本"を編集した編集者に、逆境の乗り越え方を聞いた

  • 書名 逆境の教科書 ピンチをチャンスに変える思考法
  • 監修・編集・著者名山口 伸廣 (著)
  • 出版社名集英社
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人間、生きていれば必ず「逆境」に立ち向かわなければいけない時が来る。そこで打ちひしがれるか、乗り越えようとあがくかによって未来は変わる。

人はどのように逆境を乗り越えればいいのか。
そのヒントになるのが『逆境の教科書 ピンチをチャンスに変える思考法』(集英社刊)である。著者の山口伸廣さんは、かつて一晩で資産230億円を失うなど信じられない逆風を受けながら、実業家として復活を遂げた人物だ。

そんな本を担当した編集者は、やはり逆境の乗り越え方を熟知しているのか?

本書の担当編集であり、集英社ビジネス書編集部の編集長である藤井真也さんに、新刊JP編集部の金井がインタビューをした!

■編集者は「毎日が逆境」であるということ

金井:今日は宜しくお願いします!

藤井:宜しくお願いします! 何でも聞いて下さいね。

金井:では、さっそく。よくマンガや雑誌などでもテーマになる編集者という仕事ですが、実際に働いている中で感じる「逆境」はどんなものがありますか?

藤井:もしかしたらご期待とは違う答えかもしれないけど、毎日が逆境かもしれません。

金井:毎日が逆境!?

藤井:そうです。日常的にトラブルが起こるというかね(笑)

金井:日常がすでに逆境...。

藤井:そうなんですよ。だから、もう逆境だと感じていないかもしれない。

金井:すごいですね...。編集者を描いた創作物では、本が出版されない、企画が通らないといったところで主人公がつまずくシーンを見かけますが、それらは日常茶飯事ということですか?

藤井:本を出す企画1つあっても、関わる人はとても多いんです。社内ならば編集者だけではなく宣伝、営業などからも、本をより多く売るために意見が出てきます。

金井:いろんな人の承認を得ないと本が出ない。

藤井:それはあると思いますね。いろいろな段階を経て各部門に納得してもらわないと、本にできない。だから企画を自信満々に持っていっても、「商品性が低い、売れる根拠が弱い」などの理由からボツになるケースは普通にあります。

金井:それはショックを受けますよね...。

藤井:最初はショックかもしれないけれど、これが編集者としての逆境ですからね。その部分は乗り越えないといけないでしょうね。

金井:厳しい世界だ...。

藤井:こうなってくると、逆に社内でスムーズに通った企画の方がちょっと怖いです。「え!?そんな強気でいいの?」という気持ちになるときもあります。

金井:それって身内が味方になっている状況ですから、安心感が生まれそうですけど、そうじゃないんですか?

藤井:例えば、その時の流行をテーマにしてビジネス書を作る企画があったとします。そうなると、全体に「これは今、トレンドで鉄板だから売れるでしょう」という空気になるじゃないですか。

金井:なっちゃいますね。もう成功が確約されたような気になっちゃう。

藤井:だから、編集者が思っている以上に周囲がより強気に出ちゃう。初版部数も、プロモーションもガンガン打ちましょう、と。

金井:なるほど。期待度が上がってしまうわけですね。

藤井:ところが、残念ながら、意外に風が吹かずにその期待度を上回れないことも多い。それは何度も経験しています。こういうことが日常的に起きますが、クヨクヨしていられないんです。すぐに次の企画に向かわなければいけませんからね。


■アマゾンレビューで低評価をつけられても「そこまで気にはしない」

金井:藤井さんがご担当されて重版もかかった『逆境の教科書』。その著者の山口さんは「最悪の事態を予測しなさい」と語っていらっしゃるんですけど、藤井さんもそういう風に心がけていますか?

藤井:最悪の事態というと「出したい本が出せないこと」なんだけど、それは考えていますね。ただ、そうなっても何をすればいいのかということは分かっています。本を出すために、企画にどんなプラスの付加価値を加えられるかを探るわけです。

金井:それは本が売れる要素探しということですか?

藤井:まさにそうですね。出すからには、たくさんの人に読まれないといけないわけです。だから、読者の手に届けるための方法をとにかく練ります。

金井:「これは出版できない」というところから覆ることはあるんですか?

藤井:もちろんあります。波風が立つのは当たり前で、時間がそれを解決することもありますし、プラスの要素を加えるなどして、より良い企画で出版が実現したこともあります。

金井:出版後にアマゾンなどで低評価のレビューや辛辣な批判を浴びることもありますが、それも逆境なのでしょうか?

藤井:これも普通にあることですね。僕らは貴重な意見として受け取りますが、初めて本を出版されたビジネス書著者さんの中には、落ち込まれる方もいます。
実は初めて本を出された著者さんの本のレビューには、著者さん自身を応援している人も多いので高評価がつくことが多いんです。ただ、本が多くの人に読まれれば読まれるほど、著者のことが気になって批判したくなるアンチも出てくる。だから、低評価が付くということは、それだけ本が読まれてきた証拠でもあるんですよね。

金井:では、低評価がついても編集者としてはそこまで気にしていない。

藤井:そうですね。あえて気にはしません。悪質なレビューは困りますが...。

金井:著者と編集者の関係はどうなんでしょうか。藤井さんはビジネス書の編集をされているので、経営者やビジネスマンの著者さんも多いと思いますが、ビジネスパートナーのような感じですか?

藤井:ビジネス書ですと、確かにビジネスパートナーという言葉が一番合うかもしれませんね。それはなぜかというと、ビジネス書を売っていく上では、出版社と著者本人がクルマの両輪のようにいっしょに協力していくことが何よりも大切だからです。SNSで情報をこまめに発信して人気を得ていたり、その業界で知らない人はいないというような存在だったりする著者の本は当然購入の確率が上がります。出版社による宣伝プロモーションや販売戦略ももちろん必要ですが、その本を書いた著者自身の発信や働きかけはそれ以上に大事。一緒に本を売っていくという意味では、まさにビジネスパートナーですね。

金井:では、著者さんとケンカになったりすることも...?

藤井:これは編集者の性格によるところが大きいですね。いいものを作るためにケンカ、というかしっかり議論をして関係を深めるタイプもいますが、著者と本当にケンカしてしまう編集者は少ないと思います。特にビジネス書の著者は、経営者やビジネスマンの場合がほとんどですので、理詰めでじっくりお話をしたほうがまとまると思います。

金井:ビジネス書の編集もビジネスライクなんですね。

藤井:「逆境」という意味ではご期待の答えではないかもしれませんけど(笑)これが小説家など文芸の著者さんだったら、編集者との関係もまた違ってくるのかもしれませんが。

■編集者が担当した本から学んだ逆境乗り越え術とは?

金井:今は出版業界自体が逆境のようなところがありますよね。

藤井:はい、そうですね(苦笑)

金井:その逆境を感じる瞬間は?

藤井:僕はもともとビジネス書の編集をする前は雑誌の編集部にいたのですが、書籍編集の立場から見た時に、今の雑誌の編集はかなり大変だと思うことがありますね。

金井:確かに雑誌不況は目も当てられない状況です。藤井さんから見て、どのような部分が大変そうに見えるのでしょうか。

藤井:今の雑誌の編集は中身を作ることともに、いかに広告を取るかというところにエネルギーや神経を使わないといけなくなっています。広告なしで雑誌を作るのはかなり難しいでしょう。当然、クライアントの意向も反映しないといけないこともありえます。

金井:中身に集中できない状況が生まれているわけですね。

藤井:もちろん面白い雑誌を作るという意識はとても高いのですが、その他にも気を使わないといけない場所がとても多いということですね。書籍には広告は入りませんから、より面白い中身を作ることに集中できてはいます。

金井:『逆境の教科書』の編集を担当されて、逆境への向き合い方が変わりましたか?

藤井:いろいろありますけど、著者の山口さんは49歳のときに会社を乗っ取られて、資産230億円を一晩で失う経験をしているわけです。そこから復活をして、今なお実業家としてそんな逆境などなかったかのように、笑顔で活躍されている。その姿を見て、自分に失敗や壁があったとしても、そこまで大したものではないなと思えるようになりましたね。

金井:230億円と比べたら、どんなものも小さな規模だ、と(笑)

藤井:そう。230億円ですからね。だから一緒に本を作るうえで、すごく励みになりました。また、山口さんの逆境の乗り越え方も明快で、特に「逆境を乗り越える5つのアクション」というノウハウを紹介してくださっているんですが、その中の「逆境をバラバラに分解する」ということが何よりも印象に残っていますね。230億円を失ったことも、その全体を見ると大事ですが、バラバラに分解してしまえばおそろしく小さいことの集まりになる。そうすると、どれもそんなに大したことではなくなります。これができるかできないかで、逆境への立ち向かい方も全く変わってきます。

金井:小さくしてしまえば、解決しやすくなりますよね。

藤井:どんなに大きな逆境でも、一つ一つ細かくすることで乗り越えるきっかけをつかむことができる。おかげで、何かトラブルがあっても、より冷静に見られるようになりました。これは日々の仕事ですごく使えますよね。

金井:僕も逆境に立ったらそのように考えてみます!今日はありがとうございました。

(了)

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