2024年 4月 26日 (金)

「断食」は人類史上最高最強の健康法か 眠っていた若返り遺伝子のスイッチがオン

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【美と若さの新常識】(NHKBSプレミアム)2017年6月1日放送
断食は体質改善のスイッチ 若返りの強い味方サーチュイン遺伝子

   断食はダイエットのためにあらず、体質改善のスイッチがオンになるスゴイ効用があるらしい。

   断食は、なんと人類数百万年の歴史でつちかった究極の健康法なのだ。空腹という命の危機に、眠っていたカラダの奥底から湧き出るパワーを最新科学が明らかにする。

  • 断食にはいいことがいっぱい
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月1回断食をするモルモン教徒に驚きの効果

   番組では冒頭、2015年5~6月に30日間、飲み物以外は一切摂取しない「不食」生活を実践して話題になった俳優の榎木孝明さん(61)のドキュメンタリー映像を公開した。榎木さんは不食中の心身の変化を、「持病の腰痛がなくなった」「セリフの覚えが速くなった」「スタミナが増した」「睡眠が深くなり4時間で十分になった」「武道の動きが鋭くなった」と語っている。実際、長い階段を一気に駆け上がる姿や、武術で棒をクルクル回す動きの映像を見ると、何も食べていない状態の人物だとはとても思えない。

   「断食の健康効果」は数値で測りにくいことから、これまで科学の研究の対象にならなかった。ところが、2011年に米国心臓病学会で宗教上の理由から毎月断食をするモルモン教徒の研究が発表された。米国ユタ州は人口の6割をモルモン教徒が占める。彼らは毎月最初の日曜日に、24時間、水以外は口にしない断食を行う。そこで、モルモン教徒と同じ町に暮らす一般住民との病気の発症率を比べてみると、モルモン教徒は心臓病の発症率が39%、糖尿病は52%も低いことがわかった。

   日本でも慶応義塾大学の伊藤裕教授がマウスを使った実験で、通常のエサを毎日食べるグループと、3日間ずつ断食を繰り返すグループを比較すると、断食マウスの方が太りにくい体質になった。この体質は断食終了後も3か月間続いた。伊藤裕教授はこれを「断食メモリー」と名づけ、断食をすると健康効果が細胞の分子レベルにまで影響を与え、ずっと続くことを明らかにした。

腹ペコサルの方が飽食サルより長生きをした

MCのお笑い芸人・後藤輝基「伊藤先生、断食によって起こる体質改善が、一時だけでなく長く続くのはどうしてでしょうか」
伊藤教授「断食は、カラダに対して『食べ物がない』という危機的状況を知らせる、かなりのショック療法です。人類の歴史の中では飢えることが多かったので、生き延びるための仕組みがカラダに備わっています。みんな本当は『伝家の宝刀』を持っており、それが使われずに眠っているのです。それを抜くようにカラダを変えるのが断食で、眠っているスイッチをオンにするのです」

   では、「伝家の宝刀」とは何だろうか。それは、若返り遺伝子と呼ばれる「サーチュイン遺伝子」だ。番組では、米ウィスコンシン大学で長年続いている老化研究の実験を紹介した。生まれたばかりのアカゲザルを80匹以上集め、20年以上飼い続ける壮大な実験だ。サルを2つのグループに分け、一方に通常のエサを、もう一方に30%少ないエサを与え、カロリー制限をした。すると、腹ペコのサルの方が長生きをした。24年後の生存率を比べると、通常のエサのサルは50%以上が死んだのに、腹ペコサルは80%以上がまだ生きている。

   しかも、サルの外見を比較すると、人間で言うと75歳ほどの年寄りなのに、腹ペコサルの肌には張りがあり、毛が抜け落ちていないが、通常のサルの毛は抜け落ち、肌もしわだらけだ。同じ年齢で、なぜこんなに違いがあるのか。サルの遺伝子は調べると、腹ペコサルは「サーチュイン遺伝子」の働きが活性化していた。これがサルを若返らせ、寿命を伸ばしているのだ。

若返り遺伝子は100以上の方法で老化をブレーキ

   金沢医科大学の古家大祐教授は、人間に対しても同じ実験をしてみた。30代~60代の男性4人に、通常の必要摂取カロリーから25%減らした食事を7週間続けてもらい、「サーチュイン遺伝子」の働きを調べた。すると、「サーチュイン遺伝子」の働きが数倍から最大10倍も増えた。古家教授が行った別の断食の実験では、48時間の断食で「サーチュイン遺伝子」の働きが2~4倍に増えた。断食はカロリー制限よりも短時間でスイッチをオンにできる近道なのだ。古家教授はこう解説する。

古家教授「サーチュイン遺伝子は、免疫細胞を活性化させたり、血管の老化を抑えたり、傷ついた遺伝子を修復したり、なんと100以上の方法で老化にブレーキを掛けます。その結果、肌や筋肉、血管の若さが保たれるのです。サーチュイン遺伝子はカラダの中にある、指揮者みたいなもの。カラダがちゃんと元気で病気にならずに長生きしているか、細胞の働き全体を指揮しているのです。しかし、そのスイッチは、空腹の時しか出てこないのです」
MCの後藤「断食すると、生命のスイッチが入るとか、なんだか座禅を組むと悟りが開けるみたいな、宗教の世界の話のようですね。伊藤先生、科学的にはどう説明するのですか」
伊藤教授「キーワードは『ケトン体』です。普段、私たちが食べたものは腸で吸収され、エネルギー源のブドウ糖となって全身に運ばれます。ブドウ糖は何も食べないと8時間で全てなくなります。断食とはエネルギー源がゼロになる生命の危機なのです。カラダが危機状態になると、中性脂肪が肝臓に集まってきます。肝臓で脂肪が分解されてできるのがケトン体です。ケトン体は新たなエネルギー源としてカラダの様々なところで働くのです。さらにケトン体は、もう一つ重要な働きをしていることで世界中の研究者に注目しています」
MCの後藤「それは何ですか」
伊藤教授「ケトン体は、遺伝子の働き方を変える作用があることが分かってきました。遺伝子そのものを変えることはできないが、遺伝子の働き方を変えることはできるわけです。たとえば、太りやすい体質があるとします。ケトン体が遺伝子の働きを司る部分と反応すると、細胞の中にあるミトコンドリアの力を呼び覚ますスイッチがオンになります。その結果、ミトコンドリアは効率よく次々とエネルギーを作り出すようになります。細胞内で脂肪がエネルギーとしてどんどん使われるので、結果として太りにくいカラダになるのです。ケトン体がなくなっても、ミトコンドリアのオンの状態は保たれます。これが『断食メモリー』で、太りにくい体質になれるのです」

プチ断食に「ウサギ方式」と「カメ方式」

   しかし、日常生活で断食を実践するのはハードルが高い。伊藤教授も「本格的な断食は医師の指導のもとで行なわないと危険だ」と指摘する。もう少し手軽に「断食メモリー」が働くようにならないものだろうか。番組では、自己流で実践している2人の「プチ断食」を取り上げた。「ウサギ方式」と「カメ方式」の対照的な2人だ。

   ウサギ方式の実践者は男性の高木さん(43)。高木さんは断食道場に年2、3回通い続けている。そして自宅では週に1回、半日の断食をしている。朝昼はお茶以外口にせず、夜だけ普通に食べる断食だ。断食を始める前は66キロだったが、断食を始めて5キロ減量。しかも8年間同じ体型を維持している。

   一方、カメ方式は女性の日暮さん(26)で、毎日カロリー制限をしている。朝食はニンジンとリンゴを絞ったジュースと梅干し1個。お昼もアーモンドパウダーを紅茶に溶かしたドリンクだけ。夫と一緒の夕食は炭水化物を抜き、おかずだけ食べる。2人の1週間のカロリー総摂取量とケトン体の数値を比べてみると(注:ケトン体の基準値は26~122)――。

   (1)高木さん=摂取カロリー 1万6144キロカロリー/ケトン体 304

   (2)日暮さん=摂取カロリー 5138キロカロリー/ケトン体 355

   摂取カロリーは高木さんのほうが3倍高いが、ケトン体の数値は2人ともほぼ同じで、基準値よりかなり高い。高木さんは3倍多く食べているにもかかわらず、日暮さんと同じ効果を上げている。カメ方式とウサギ方式、断食効果を得るためには、どちらが良いのか。伊藤教授はこう指摘した。

伊藤教授「日暮さん(カメ方式)のやり方は、危なくてオススメできません。確かにケトン体の数値は上がりますが、1日に700キロカロリーしかとっておらず、慢性的な栄養不足でカラダが悲鳴を上げています。これを続けると筋肉が壊れていくなどの悪影響が出る心配があります。一方、高木さん(ウサギ方式)の方は、1週間に半日だけ断食をするだけで、ケトン体の数値が上がっています。ここが大事です。研究者として興味深いのはウサギ方式です。『頑張るときは頑張るけど、あと寝ている』というパターンです」

   さらに、伊藤教授はこうアドバイスした。

伊藤教授「最新研究では、健康な人が断食をすると、様々なよいことがあると分かってきました。しかし、断食をする場合には常に注意が必要で、基本的には医師の診断を受けて行うこと。個人で断食する場合は半日を目安に、最大でも24時間まで。特に高齢者や心臓病、腎臓病、糖尿病、脱水症状のある人が断食を行うと、ケトン体が上がりすぎて呼吸困難や昏睡(こんすい)などの危険があるため注意してください」
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