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酒に酔った部長が女子社員にキスしたら「セクハラ」か

   セクハラ・パワハラは、それがたとえ社内で起こったことでも社会的な問題とされるのが、いまの世の中。甘い処分は許されない。

   一方で、ハラスメント(嫌がらせ)と明確に判断できない場合は、その影響の大きさを考えて、厳しい処分を躊躇しがちだ。ある大手食品会社の担当者は「微妙なケースが増えて、判断に迷うことが多い」と嘆いている。

宴会でキスされた女子社員が部長の「解雇」を訴える

――食品会社の人事担当です。5年前から「セクハラ・パワハラ相談窓口」を設置していますが、最近は以前のような露骨な嫌がらせは減った気がします。その代わり、いろいろと判断に迷う微妙な例が増えて困っています。

   華やかで目立つタイプの女性社員A子は、男の扱いに慣れていて、職場の飲み会でカラオケを歌いながら男性社員のネクタイを外してみたり、膝の上に座ったりという行為は日常茶飯事でした。

   ある日、A子は飲み会の席で自らB部長の隣の席に座り、新婚夫婦よろしく「お口を開けて、あ~ん…」と食べさせていたところ、酔った勢いでB部長がキスをしてしまったのだそうです。

   するとA子は急に泣き出して店を飛び出し、翌朝、会社のセクハラ相談窓口に駆け込んで、部長の解雇を求めたのです。

   以前、社内不倫を清算した女性社員が、相手の男性社員をセクハラで訴えたときにも思ったのですが、こういうときの責任は一方的に男性側にあるとも言えないのではないでしょうか。

   しかし、訴えた女性は実際に被害を受けているし、職場の人権侵害に厳しい目が向けられている中で、とてもそんなことは口にできません。

   その他にも、「上司が嫌らしい目でジロジロ見るのでセクハラとして処分して」とか「挨拶をしない新入社員を強く注意したら、パワハラで訴えると逆ギレされた」とかいう相談もよく寄せられます。

   でも、それが本当にハラスメントと言えるのかもはっきりしないし、担当者として関与すべきことなのかどうかすら、よく分かりません。どうしたらいいのか頭を抱えています――

臨床心理士・尾崎健一の視点
まず相談者の気持ちを聴こう

   ハラスメントに関する訴訟が起こされるのは、被害の相談をしたときに重要に扱われなかったことへの「失望」が発端になっているケースがほとんどです。「会社にいれば、その程度のことはあるもんじゃないの?」とか「飲んだ席でのことは、会社では何とも対処のしようがないなあ」とか、そういう対応が問題を大きく広げます。

   セクハラやパワハラの判断の基準は「被害者の感じ方」によって変わるということが、世の中にだいぶ浸透してきました。相談を受ける上司や相談窓口の担当者が注意すべきなのは、どのようなハラスメントが行われたかという「事実の確認」をする前に、まずは被害者の立場に立って「気持ちを聴く」ことです。相談や訴えを受けた人が被害者の気持ちをいかに受け止めて耳を傾けられるかが、最大のポイントです。人権啓発やメンタルヘルス対応の観点から「傾聴」の研修を実施している大手企業も増えています。

社会保険労務士・野崎大輔の視点
セクハラ防ぐルールの明確化を

   ハラスメントへの対応では、加害者とされた人だけを最初から悪者扱いをすることは危険です。過大な処分をして会社が加害者から訴えられるケースもあり、客観的な視点でバランスの取れた判断をすることが重要です。

   普段の行為から考えて、私はA子さんにも責任があると思います。B部長がA子さんに謝罪するのと同時に、A子さんにも注意を促しておけば、それ以上の処分は必要ないと思います。しかし「やめてください」と言われたのにB部長が繰り返していた場合には、B部長の責任は重くなるでしょう。

   人間関係の中で起こるハラスメントの発生を、100%防ぐことは困難です。会社のリスクを低減するために、あらかじめルールを明確化し、社内で周知しておくことで、最低限の会社の責任を果たしておくことも必要です。具体的には「セクハラ・パワハラ防止規程」を作り、「業務終了後の懇親会等において、相手の意に反して座席を指定し、酒を強要すること」などの禁止事項を具体的に挙げ、それを行ったときの懲戒事項について定めておくことなどが考えられます。


(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。