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支店の課長がオフィスで命を絶ってしまいました・・・

   「平成20年中における自殺の概要資料」(警察庁)によると、わが国の自殺者は平成10年以来、11年間連続で3万人を超えたという。「リーマン・ショック」以降の不況の影響も危惧されるところだ。ある会社の人事担当は、職場で発生した自殺の影響の大きさに頭を抱えている。

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居合わせた上司や同僚も不安を訴える

――大手薬品メーカーの人事担当です。永く勤めていると、社員が関わる事故や事件に関わることがありますが。その中でも対応に苦慮するのは「自殺」です。
   先日、大きな支店のある会議室で、課長が首吊り自殺をしました。最初に発見した同僚や遺体を降ろした上司、消防隊を見た支店の従業員が、不眠や精神的不安定などを訴えています。
   葬儀に参列した支店長と人事担当者は、遺族から「会社のせいだ!」と激しい糾弾に遭って、精神的に参ってしまいました。
   原因は特定されていませんが、多少の時間外労働と、パワハラにあたるかどうか分かりませんが上司の叱責などはあったようです。労務管理体制や労働時間などについて、実績をさかのぼって詳しく調査し、経営陣や警察、労働基準監督署に報告しなければならなくなっています。
   社員は支社のオフィスに出たがらなくなり、オフィスを移転せざるを得ないだろうと考えています。自殺の場所から考えても、訴訟や風評リスクもあり得ます。不動産会社から損害賠償を請求されるかもしれません。
   いまは、事件をどうやって社内に伝えるべきか悩んでいるところです。事件が知られれば社員が動揺しますし、隠していてもいつかは明らかになって、会社が何か隠蔽しようとしていると憶測を呼びかねません。いずれにしてもインパクトが大きすぎる命の問題に、頭を痛めるこのごろです――

臨床心理士・尾崎健一の視点
ショックが大きい人を中心に専門的対応を

   自殺は、遺族や同僚に与える影響が非常に大きく、対応に注意の必要な出来事です。ショックが大きい人を中心に、精神科医の診断やカウンセリングを受けていただいた方がよいでしょう。特にこのような精神的ダメージの大きい出来事には、専門的対応を要し、経験のある専門のスタッフがあたる必要があります。自殺の連鎖が起きる場合もあるので、関わりの深かった人には要注意です。

   また、日頃から従業員のメンタルヘルスケアに会社が取り組み、自殺を引き起こさない努力をすることが大切です。従業員のストレス状態を把握する面談の機会を定期的に設けたり、仕事に行き詰ったときに相談できる仕組みを作っておくべきでしょう。特に、事が起こった後に再発防止の姿勢が見えないと、従業員からの信用を失います。

   社内には状況を詳しく説明する必要はありませんが、事実は正しく伝えたほうがよいでしょう。隠してあらぬ噂を立てられるより、誠意を持った姿勢を見せた方が会社への信頼や忠誠心も上がるというものです。いずれにしても、その時の対応も大切ですが、日頃から従業員を大切にする文化を醸成することがもっと大切です。

社会保険労務士・野崎大輔の視点
遺族の労災申請には協力すべき

   会社は遺族に対し弔意を表し、会社としてできる限りの支援をすべきと思います。会社が責任を問われることを恐れ、責任回避の姿勢を全面に出すと、遺族の感情を害して問題がこじれ、訴訟に発展してしまうことがあります。

   自殺と業務との関係については、会社では判断しきれません。遺族が労働基準監督署に労働災害の申請を出すときは、これを妨害したり取りやめるよう説得するようなことはすべきではありません。申請書類の作成に協力し、労働基準監督署に判断を委ねます。

   労災の判断においては「過重労働がなかったか」「自殺に業務と何らかの因果関係がなかったか」ということが焦点になります。また、訴訟になった場合には、会社がメンタルヘルスケアの取り組みを普段からしていたかどうかという点も、会社の責任を問う上で考慮されます。日頃の労務管理体制が重要になるわけです。

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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。