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営業マンが「てんかん」の発作で事故を起こしました

   病気の症状というのは、何年も経って忘れたころに現れることがある。もっともショックを受けるのは本人だろうが、周囲はどのような対応をすればよいのか。

   ある会社では、健康上の問題を抱えていないと思われていた社員が、仕事中に発作で交通事故を起こしてしまったという。

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営業車が自損事故。運転手は救急車で搬送

――食品卸の人事担当です。先日、警察から、当社の営業車が路肩にぶつかって立ち往生している、という連絡を受けました。
   急いで駆けつけてみると、営業のAくんが救急車で運ばれているところでした。医師によると「てんかんの発作」ということで、運転中に急に意識が薄れて事故になったとのこと。
   幸い自損事故で済んだのですが、症状が落ち着いたAくんに話を聞いてみると、以前にもそのような診断を受けたことがあると言うのです。
   ただ、発作は小学生のときが最後で、すでに忘れていたので入社の書類にも「既往なし」と書いたとの事でした。
   医師は、今後は万一のことを考えて、車の運転や荷物の積み下ろしなど、発作が起きたときに危険な仕事は避けたほうがよいと言っています。同じ部署の仕事では営業サポートの仕事がありますが、それでは本人が満足しないような気がします。
   また、入社以来8年間営業一筋のA君を、急に経理や人事などの専門業務につけることも迷います。
   折りしも当社では人員整理中で、どの部署も組織の合理化を進めており、受け入れてくれるところがあるかどうか分かりません。
   厳しい経営状況の中で解雇という選択肢も思いつきますが、本人や周囲に与えるショックも少なくないでしょう。そもそも担当者として、どういう種類の病気なのか、治るものなのかも理解していないのがいけないのだと思いますが、どう対応すればよいのか困っています――

臨床心理士・尾崎健一の視点
適切な治療で対応できるはず。同僚への教育を行う必要も

   てんかんは精神疾患ではなく、脳神経の不全です。患者は100人に1人とも言われ、さほど珍しい病気ではありません。発作の頻度が多い人と少ない人がいますが、治療を適切に行うと、完治は難しくとも発作をある程度抑制することができるとされています。

   Aさんの場合には、あらためて適切な検査と治療を受けさせることが最優先されます。そして、服薬によって発作をコントロールできると思われます。発作時に危険が予測される業務以外であれば問題はないので、雇用を継続するには支障ないと思われます。ただ、病気に対する周囲の正しい理解のためにも、産業医などから従業員に教育を行うことも適宜必要と思われます。

社会保険労務士・野崎大輔の視点
病気を理由とした解雇はできない。配置転換で対応する

   Aさんの最後の発作が小学生のときで、入社して8年も問題がなかったわけですから、本人が「既往なし」としたことは責められないでしょう。また、適切な治療をすれば危険な業務以外で働けるのですから、病気を理由とした解雇はできません。本人の意向にもよりますが、配置転換をせずに解雇すれば不当解雇で訴えられるでしょう。

   ただし、危険な業務は避けなければならず、営業の仕事を続けるにしても、例えば自動車の運転は別の人が行うとか、営業サポートの仕事に代わってもらうとか、あるいは他部署の事務職に移るなどの配置転換は避けられません。本人には現在の業務をそのまま行うことで起こりうる事故の危険性などを説明し、納得してもらうことはできるのではないでしょうか。なお、本人が了承すれば「障害者保健福祉手帳」の適用も考えられます。

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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。