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「課長がパワハラ!」相談を受けた部長はどうすべきか

   部門の業績が上がらないのに頭を痛めている部長。各課長に指示を出し、苦境を脱しようとしている最中、部員から「課長がパワハラをしている」という訴えが。これが本当なら大問題だが、部長の権限で解決した方がいいのか、それとも会社に報告すべきか。

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部下からは「誰にも漏らさないで」と頼まれるが

――印刷会社の部門長です。先日、部下のA君から折り入って相談があると話があり、別室で「実は課長からパワハラを受けているので、何とかしてほしい」と相談を受けました。どうやら課長は、部長である私がいないところでA君に相当厳しく当たっているようです。

   「仕事が遅いくせに残業だと?この給料泥棒が!」と嫌みを言ったり、「仕事のレベル低すぎ。徹夜で直しておけ」と言ったり、同僚の前で「バカ」「アホ」「お荷物」「目障り」「なんで辞めないの」などと、長時間にわたって大声で叱責したりするのだそうです。

   巻き込まれたくない周囲の同僚は、傍観者を決め込んで見て見ぬ振りをしているようです。A君は誰にも相談できず、我慢していたものの、会社に行こうとすると吐き気がするようになり、思い切って部長の私に相談してきたようです。

   とは言っても、今まで部下からこのような相談を受けたことがなく、どうすればよいのか迷っています。A君からも、報復を恐れてか「誰にも漏らさないで」と言われているので、課長にも直接事情を聞けていませんし、他の人にも相談していません。

   業績へのプレッシャーが課長を苛立たせているのだろうと責任を感じますが、こういうケースは対応に間違うと、A君の憤りが大きくなって騒ぎが拡大したり、会社の責任が問われてしまったりするのではないかと心配になってきます。いったい私はどうすればいいのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
自分ひとりで対処するのは危険!担当部署に相談すべき

   このようなケースでは、部長ひとりが抱え込んで解決しようとするのは危険です。人事部や総務担当役員など、しかるべき担当に報告して対応しましょう。早い段階での事実確認が必要ですし、訴えた部員だけでなく、課長や同僚からも客観的な情報を得る必要があるからです。また、問題がこじれると会社としての対応が難しくなるし、結果的に解決したように見えても「部長がもみ消した」などといらぬ誤解を受けることもあるからです。A君には、「この問題には会社としてきちんと対応したい。話が漏れないようにするから、人事を交えて話をしてもよいか?」と了解を得ておきましょう。

   なお、パワハラは問題が表面化せずに進行することも多く、隠れたリスクを吸い上げるためには「内部通報制度」を整備しておくことも重要です。通報者を安心させるために窓口を外部の弁護士に頼むケースが増えていますが、法的な側面しか対応してもらえないおそれもあります。社員の信頼を集めている管理職や、メンタルな対応もしてくれるカウンセラーなどを相談窓口にすることで、苦情や悩みが集まりやすくなります。

臨床心理士・尾崎健一の視点
被害者本人の「心のケア」と「安全確保」も大切だ

   見落とされがちなことですが、最初の段階で大切なのは、被害を受けたA君のケアをすることです。信頼できる聴き手として安心してもらうためには、彼の気持ちをよく聴く「傾聴」というスキルが必要です。具体的には次のようなことに注意すべきです。

・事実確認は後に回し、本人の話したいことを話させる心構えを持つ
・アドバイスしたい気持ちを抑え、「悲しかった」「悔しかった」「やるせない」「落ち込んだ」などの感情を理解するように聴く
・話の中に気持ちや感情の部分が出てきたら「そうだなあ」「そういう気持ちになるのも無理はない」と十分に共感する

   誰しも共感してくれる人がいてこそ、安心できるものです。気持ちを十分吐き出させてから、事実確認など問題解決に必要なステップを一緒に考えます。気持ちを共有できないうちは、被害者に解決の為の情報を提供してもらえないことも多いのです。

   また、ハラスメント問題では、被害者が暴力を振るわれていたり精神的ダメージが大きすぎたりして、心身のへの不調が出ていることもありえます。早い時点での心のケアや双方を物理的に離すなどの安全対策も検討してください。

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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。