J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「残業主義」の課長のせいで病気になりそうです!

   高度経済成長の時代には、モノを作れば売れたので、社員は寝る間を惜しんでモノを作り、働けば働くほど給料が上がりました。しかし経済成長率が低下した昨今では、ただひたすら働くだけでは売れなくなっています。ある会社では、世代間の「働き方」の認識にギャップが生じて、上司と部下との間に対立が出来てしまっているようです。

>>ヨソでは言えない社内トラブル・記事一覧

他部署と比べて残業突出「俺が若かった頃は終電が常識」

   小売業の人事担当です。先日、第一営業部の社員から、相談のメールが来ました。「営業課長が帰りづらい雰囲気を出しているので、なかなか家に帰れません」という内容です。

   課長は常々、「俺が若かった頃は、終電で帰るのが常識。休日出勤だって当たり前にやってたんだぞ!」と誇らしげに言っているそうです。また、出勤すると、前日の夜遅くに業務の指示がメールで送られていることも。

「まるで、俺が遅くまでいるのに、何でお前らは早く帰ってるんだ、と言わんばかりです。みんな疲れています。このままでは病人が出てもおかしくありません。何とかして下さい」

   部の勤怠状況を調べたところ、10人の部員全員の月の残業が80時間を超えており、他の部署と比べても突出して多いことが分かりました。会社では残業削減の取り組みをしているので、課長の認識は会社の意図と逆行しています。

   ただし、この不況下で実績はなかなか上がらず、課長としては何が何でも売上目標を達成しようと焦りがあるようです。

   一方、部下の間では「休日出勤なんて、いつの時代の話? それだけ長時間働いて課長止まりかよ」「課長は家庭がうまくいってないから、家に帰りづらいらしいよ」と陰口を叩かれているようです。どのように手を打ったらよいのでしょうか。

社会保険労務士・野崎大輔の視点
部の目標に「コスト削減」「残業削減」を入れてもらう

   部下からのクレームを聞いて「残業は悪いこと」で済むのであれば、苦労はありません。売り上げが上がらなければ会社は成り立ちませんし、営業部員の評価も下がります。営業課長が必要に応じて部下に残業をさせるのは当然です。

   ただし「残業月80時間以上」は過労死のリスクを高めると言われており、ノルマ未達成を盾に過重労働を放置していると、従業員が健康を害した場合に会社の管理責任が問われます。また、平成22年4月1日からは改正労働基準法により、1ヶ月60時間を超える残業は割増賃金率が25%から50%に引き上げられます(中小企業では当面は適用猶予)。不況を乗り切れる企業体質にするために、業務効率や生産性を上げる努力も不可欠です。部の目標に「売り上げ」だけでなく「コスト削減」「残業削減」もあわせて設定し、同時に取り組むよう営業部長に相談しましょう。評価に直結させなくとも、部署ごとの労働時間の実態を集計し、残業時間の上限を決めることも考えられます。

臨床心理士・尾崎健一の視点
帰宅時間の原則を作るなどメリハリの利いた働き方を

   ITの普及で業務の生産性は「課長の若いころ」よりも向上しており、パソコンを使ったデスクワーク特有のストレスや疲労も増えています。個人の健康を考えれば労働時間は短縮してしかるべきです。また、サービス残業をする理由として「みんながしているから」と答えた人が22.4%もいました(複数回答。連合の調査による)。同僚の手前、「お先に帰ります」と言うことを遠慮しているのでしょう。思いやりの精神は美しいのですが、ムダな残業が生じていることも否定できません。

   「組織の一体感」を重んじる企業では、個人がこのような「心理」的な壁を破るのはなかなか難しいものです。より効果が上がるような営業戦略・戦術や目標の見直しをしつつ、部長や課長が口先だけでなく意識を変えて、常々「効率化」を口にし、自らが率先して帰ることしか方法はありません。「ノー残業デー」ではなく「残業デー」を設け、それ以外の日は終業1時間以内の帰宅を原則とするなど、強制的な退社をルール化することも一つの案です。

>>ヨソでは言えない社内トラブル・記事一覧

(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。