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「カッコいい会社」から「カッコいい生き方」へ

   昨(2009)年末、猪瀬直樹氏と対談した際に、いろいろと面白い話を聞いた。

   作家、東京都副知事として活躍中の氏だが、若い頃からずっと順風満帆だったわけではない。特に、学生運動のせいで就職活動をしないまま卒業してしまい、その後えらく苦労したらしい。僕も知らなかったけれど、今で言う“既卒問題”というのは40年前から存在したようだ。

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団塊の世代には一貫した「価値観」が感じられない

   面白いのは、同級生で一緒にデモしていたような連中が、裏ではちゃっかり就職活動をしていて、新聞社や電機といった大企業の内定を手に入れていたこと。

「(学生運動とはいえ)真面目にやってた人間をつまはじきにして、いい加減な人間を採るなんておかしいよ」

という言葉には激しく同意したい。

   一方で、当時の学生たちにとっても、学生運動というのはしょせん流行りのファッションに過ぎなかったのだろう。いや、ひょっとすると、就職自体もファッションだったのではないか。

   僕のような積極的流動化論者に対して、この世代にはとかく批判的な人間が多いが、彼らの口から日本型雇用の明確な意義のようなものを聞いたことはただの一度も無い。何を目指しているのかも言わない。せいぜい、

「オレは仕事に命をかけてるんだ」

的な精神論くらいだ。しかも、ぶっちゃけ命かけてそんなもんですかと言いたくなるような人が多い。

   そもそも客観的に見て、団塊の生き方というのはよくわからない。死人が出るほど大暴れしながら、大企業に続々と就職し、長時間残業や全国転勤で与えられる仕事をこなしつつ、バブル崩壊後の50代は保守化して既得権にしがみつく。

   こういう姿勢からは、一貫した姿勢とか価値観のようなものはまったく感じられない。まだ「赤旗一筋30年」とか言ってる人の方が(バカには違いないが)筋が通っている気がする。

「中身」の問題は数ヶ月でどうなるものではない

   もちろん、そんな彼らを「協調性がある!」といって歓迎した企業も似たようなものだ。僕が就職活動をした90年代半ばには、まだそういう空気が残っていて、

「なんでもやります!」

と元気良く答える体育会系でそれだけで内定をもらったヤツもいた。「なにをやるのか」そして「何をやらせるのか」といった中身の話は、ついぞ聞いたことがないが。

   ただし中身がない分、採る側の変わり身は早かった。いつも言っている話だが、この10年で大企業の採用基準は一変してしまった。なんでもやります的な人、マニュアル式受け答えしか出来ない人は、好不況に関わらず今後は椅子に座れないだろう。

   新しく求められるようになったものは、専門性だとか即戦力だとかコンピテンシーだとか色々言われているが、要するにファッションではなくて中身の話だ。そしてそれは数ヶ月でどうにかなるものではなく、それまでどういう生き方をしてきたかで決まってしまう。

   どういう生き方をしたいのか。あえて言うなら、そのためのスコアカード(評価基準)のようなものを自分の内部に作ることが、学生時代でもっとも重要なことだと思う。

   「どういう会社がおすすめですか?」という人間は、「どんな会社に行ったらママに褒めてもらえるのか」ではなく、自分がどういう生き方をしたいかを考えるべきだ。

城 繁幸

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