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「お局さん」が新人いじめ? 退職者続出

   自分の仕事をしながら、若手の指導もしなければならない中堅社員。苦労が多いもののやりがいのあるポジションだが、夢中で働いていると周囲から思わぬ評価を受けていることもある。ある会社では、新人が「お局さん」の指導に耐えかねて退職しているという。

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「文句があるなら課長が指導して」

――サービス業の人事担当です。最近、営業部門の事務社員の離職率が高くなっています。特に、配属されたばかりの新入社員が会社に定着しなくて弱っています。昨年も女性ばかり4人ほど配属しましたが、半年で半分、1年経たずに全員が退職してしまいました。
   はじめのうちは「最近のゆとり世代は弱いなあ。もう少し我慢できないのか」などと思っていましたが、退職間近の新入社員から悲痛な相談メールが届き、現場で起きていることを知りました。
   それによると、退職者が相次いでいるのは、陰で「お局さん」と呼ばれる営業事務のAさんのせいだというのです。
   彼女は入社15年目のベテラン、若いころは男性上司に厳しく当たられ泣いてしまうような女性でしたが、仕事に慣れるにつれて自信をつけ、いまでは営業部にもっとも長く在籍して何かと頼られる社員となりました。
   役職にはついていませんが、営業事務の新入社員の育成を一手に引き受けており、その厳しさは他の部署の耳にも入っていました。
   ただ、相談メールによると、新人には指導というより「なんでそんなこともできないの?」「自覚が足りないんじゃないの?」といった否定的な罵声を浴びせているようにしか見えないようです。

「ちょっとしたミスなのに、1時間以上もネチネチと説教するんです。何であんな人を放置しておくのですか? 気分にまかせて怒っているとしか思えません」
   課長は、事務についてはAさんに任せっきり。電話をかけて様子を聞いてみると、確かに行き過ぎた指導が目につくこともあるとのこと。しかし、やんわりと注意しても、
「甘やかしたら、つけあがるだけです。文句があるなら課長が指導して下さい!」
と言い返してくる始末だとか。とは言っても、Aさんしか知らない仕事も多く、ご機嫌をとらなければ日々の仕事も回っていかないとのこと。こういうときは、どうしたらよいでしょうか――

社会保険労務士 野崎大輔の視点

業務を洗い出しマニュアル化して引き継ぐ

   せっかく配属した新人が定着しないのは、採用コストなどを考えると会社の大きな損失。ましてや全員がやめてしまうのは尋常ではありません。Aさんに指導法を変えてもらうか、それが難しければ教育担当を外して新しいポジションに挑戦してもらうか、別の部署に異動してもらいましょう。会社の方針に合わないようであれば、退職勧奨をするということも考えられます。

   管理職はローテーションで変わっているのに、同じ部署で同じ仕事を何年も続けているベテラン社員が幅を利かせている職場は、けっこうあるのではないでしょうか。しかし、よほど専門的な仕事でないかぎり、仕事が人に付いてしまう(属人化する)ことは望ましくありません。仕事のやり方を柔軟に改善しにくくなりますし、ミスや不正の温床にもなります。特に事務の仕事では、それが顕著です。Aさんの異動を前提として、仕事の洗い出しと、誰もが引継ぎできるようマニュアル化を図りましょう。管理職はそのプロセスを監視し、何をどうやっているのかくらいは知っておくべきです。

臨床心理士 尾崎健一の視点
相手の成長のために「叱責」が必要な時も

   最近は「何を言ってもパワハラと取られかねない」と及び腰になっている上司や先輩が増えていますが、昔は厳しいことを言う「嫌われ役」が職場にいて、仕事上の「しつけ」をきちんとしていたものです。守らなければならない基本ができている人は、将来も自分の力で成長していくことができます。上司はAさんが、言うべきことを言い、時には叱責することがあっても、長期的な視点で会社のためになる指導をしているのかどうか見極める必要があるでしょう。

   なお、指導の効果を上げるためには、相手に合わせた指導が必要です。人間尊重を基本に置き、相手がどんな言い方でやる気を起こし、傷つくのか。仕事の基本は大事ですが、昔のように一方的な「新人には生意気な口応えは許さない」という指導では、もう誰もついてこないですし、それをもって「ゆとりは甘い」と言っても意味はありません。変化の時代を切り開いていく有能な人材は離れていくことでしょう。

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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。