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役員報酬「1億円以上は開示」で相場は上がるか

   総額のみ開示でよかった上場企業の役員報酬が、10年3月期決算からは、個別の報酬についても1億円以上を対象に開示が義務付けられた。この「規制強化」には批判も強いが、さらに積極的な開示を検討する企業も現れている。また、開示によって「かえって報酬相場は釣り上がる」という興味深い説もある。

ホリエモン反発「上場なんかしない」

欧米にならうだけでいいのか
欧米にならうだけでいいのか

   10年6月の株主総会では、株主からの質問に応じるなどの形で、役員一人ひとりの報酬額を開示する企業が相次いだ。中でも日産自動車のカルロス・ゴーン社長の8億9000万円や、大日本印刷・北島義俊社長の7億8700万円など、高額報酬が話題を呼んだ。

   2年連続赤字のソニーでは、ハワード・ストリンガー会長兼社長にストックオプションを含め8億円以上の報酬が支払われることが明らかになり、批判の声も上がった。このような流れに対して、株主側からは、

「株主は役員に経営を委任しているのだから、報酬を知るのは当然の権利だ」
「個別役員の選解任を判断するためには、総額だけでは情報が足りなかった」

と、賛同する声が上がっている。米国や英国ではすでに個別開示が進んでいることもあり、外国人投資家の評価も高いようだ。

   しかし、この動きに反発する人もいる。元ライブドア社長の堀江貴文氏は10年6月18日、自らのブログの中で、

「どうしてこう、年収を開示させるとかそういう方向に向かうかね」
「もしこんな悪習が続くならわざわざ上場なんかしないよ」

などと制度を批判している。事実、株式を上場させなければ、開示が強制されることはない。かつて「儲けすぎ」などと批判され、やっかみの対象にされた堀江氏だけに、強い実感がこもっている。

   伊丹敬之・東京理科大大学院教授も、欧米の開示義務の背景には、いわゆる「経営者のお手盛り」による高額報酬への批判があり、米国の10分の1程度しかない日本の役員報酬の開示を強制することは「愚策」と評している。

カゴメ「1億円未満も開示」で検討

   このような開示批判に対し、ネット上には「なぜ隠さなければならないのか」「経営者側のエゴだ」「数億円分も働いていないだろう」などと反発する声が上がっている。

   一方で、「小市民のひがみを煽る下世話な話題」「ただの覗き趣味」と反論する人も。開示を逃れるために、「役員の肩書きをやめて『顧問』にしてもらえばいいや」と開き直る人もいる。

   カゴメの西秀訓社長は、役員報酬の開示は「株主にとって経営に対する判断基準になる」と考え、報酬1億円未満でも開示する方向で検討を進めているという。確かに「1億円」というラインに、深い意味はなさそうだ。

   開示を進めると、弱気な経営者たちは横並び意識を強め、報酬額をけん制し合うように思えるが、米系投資銀行に勤める藤沢数希氏は、コラムの中で逆に今後「もっと上がる」と予想する。

「IBMの経営者の報酬が20億円で、ヒューレット・パッカードの経営者の報酬が30億円だったら、どうしてもその10億円の差が許せないのだ。なぜならば(略)誇り高き経営者の自尊心がそのような差を許容しないからだ。そして、株主も優秀な経営者が思う存分力を発揮してくれるなら、その程度の追加報酬を払うことも厭わない」

   その上で、グローバル企業を経営する日本人が増え、日本企業の経営者の報酬が上がっていくことは悪いことではないと言う。

   日産やソニーの外国人経営者が多額の報酬を得ていることを考えると、開示によって役員報酬の相場が釣り上がり、彼らと肩を並べる額の報酬を堂々と受け取る日本人経営者が現れることは、夢のある話ではないだろうか。