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「仕事がイメージと違う」と心療内科を受ける若者たち

   心療内科の現場では、いま「職場不適応」や「出社拒否」と呼ばれる状態に陥る若者の受診が増えているのだそうだ。終身雇用や年功序列の崩壊、成果主義に追われ即戦力を要求する企業の事情など、若者を取り巻く環境は苛烈だが、精神科医の片山珠美氏は、「若者の側に全く非がないとも言い切れない」と指摘する。

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「無限の可能性」教え込む弊害

片田珠美著『一億総ガキ社会 「成熟拒否」という病』
片田珠美著『一億総ガキ社会 「成熟拒否」という病』

――心療内科を受診した際に彼らが訴える理由の中で最も多いのが、「自分の希望と実際の業務内容がかみ合わない」(というものである。)
   おそらく、就職前は「こんな仕事がしたい」「あんなふうに働きたい」と夢をふくらませていたのだろうが、現在の雇用情勢では、希望通りの職場に就職できるのはごくわずかだし、たとえ運よく目当ての会社に入れたとしても、最初にやらされるのは雑用のような仕事である。
   それゆえ、イメージとは違う現実を見て途方にくれる。「自分はこんなことをするために会社に入ったんじゃない」と。イメージと現実は一致しないのがむしろ普通だが、それは受け入れられない。このギャップを埋めていくためには二つの選択肢しかない。
   思い描いていたイメージに少しでも近づけるように努力して現実の自分を高めていくか、それともそのイメージの方を少しずつ「断念」して現実を受け入れていくか、二つに一つだ。もしくは、その両方をすることで、ある程度のところで妥協をすることが必要になる場合もある。
   大多数の「普通の」人々は、後者の選択肢、つまり少しずつ「断念」しながら「現実適応」していかざるをえないことが多いのだが、それがどうしてもできない人が増えている。
   これも、自己愛イメージと現実の自分とのギャップを受け入れられない「成熟拒否」の一面だと思う。「あなたには無限の可能性がある」という幻想を教え込み、挫折や失敗などの「対象喪失」に直面させないことを重視してきた「けがをさせない」教育が、厳しい現実社会に耐えられない人間を数多く生み出すことになったのだと考えられる――

(片山珠美著『一億総ガキ社会 「成熟拒否」という病』光文社新書、67~68頁より)


(会社ウォッチ編集部のひとこと)

著者は、現代の日本社会には、年長者も含めた「打たれ弱さ」「他責的傾向」「依存症」という3つの問題があるという。その根源にあるのは、「なりたい自分」の自己愛的イメージと現実の自分とのギャップを受け入れられずに抱く、「自分は何でもできる」という幻想的な万能感。「断念」をして「それほどでもない」等身大の自分を受け止めることで、誇大妄想的でない地に足の着いた目標を立て、着実な努力ができるようになる。仕事への向かい方に思い悩む若手社員の参考になるだろうか。