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「女性の出産・育児支援」 企業自ら乗り出す動き

   国が「少子化対策」の旗を掲げて久しいが、安心して育児ができる環境にあるとはいいがたい状況がある。そんな中、企業が女性社員の「出産・育児支援」に乗り出し、復職をサポートする動きがある。

「月20万円」の保育費を補助する丸紅

将来の国の担い手が減っている
将来の国の担い手が減っている

   丸紅では10年10月1日より、「復職時保育サポート手当」を導入している。育児休業や産後休暇を取得した社員が復職する際、子どもが認定保育園に入れない「待機児童」となってしまったケースが対象だ。利用する保育サービスが月額10万円を超える費用について、会社が最大20万円、最長6カ月間補助する。

   全国ベビーシッター協会のウェブサイトによると、ベビーシッターの料金は1時間当たり1500円前後。1日10時間、20日間利用すると30万円かかる計算で、今回の手当てによって3分の2を賄えることになる。

   同社ではこのほか、保育園の送迎などで定時勤務が困難な場合に、始業時間を最大1時間繰上げ・繰り下げできる「時差勤務制度」や、父親の育児休業を連続10日間有給扱いできる「育MEN休業」をあわせて導入する。

   これらの施策は、出産・育児時の「仕事と生活の両立」や、質の高い成果を効率的に生み出す「メリハリのある働き方」の支援を目指しているという。

   厚生労働省は10年9月30日、女性の能力発揮や仕事と育児の両立支援などを行う会社を「均等・両立推進企業」として表彰。女性の育児休業取得率が3年連続で9割を超える日本アイ・ビー・エムのほか、電力会社や金融機関などが選ばれた。

   少子化に歯止めをかけるためにも、このように女性が出産や育児をしながら安心して働ける条件を整備することは不可欠だ。しかし、現実は厳しい。

   ベネッセ次世代育成研究所が2010年7月に実施したアンケートによると、認可保育園への入園申請を行った首都圏在住の母親のうち、10年4月時点で「入園できた」のは回答者の47.2%と半数以下だ。

   入園できなかった「待機児童」の保護者は、やむをえず認可外保育園を利用することになる。さらに、預け先が決まらなかった人も回答者全体の32.5%にのぼった。うち半数は親戚などの預け先もなく、仕事を辞めたり再就職活動を断念したりして育児を行っているという。

「中小企業にも広がる可能性」

   ベネッセの回答者には、子育て支援の重要課題に「保育所の増設による待機児童の解消」を挙げた人が最も多い。こうした中、育児支援に積極的なのは、現時点では財務的にも人材的にも余裕のある大手企業がほとんどだ。

   しかし、企業福祉・共済総合研究所の秋谷貴洋氏によると、優秀な女性人材を確保しつなぎとめるために、今後は中小企業でも大手の施策を参考にした取組みが進む可能性を指摘する。

「製造業や介護事業など、女性を多く雇用する職場では、女性のモチベーションを高め、職場定着を図る福利厚生策が注目され、すでに実施されているところもある。新規採用や教育に費やすコストと時間を考えれば、仕事や職場に慣れた従業員の復職を促す策の方が、経営的な効果が高い場合もあるでしょう」

   大企業のような手厚い待遇はできなくても、家族を看護できる有給休暇を上乗せする程度であれば、業務のやりくりで吸収できそうだし、2~3年の育児休業なら、無給で経験者をつなぎとめられる。事業所の中に託児所を設ければ、優秀な人材を集められるしモチベーションも安定する。場合によっては、給与や賞与のアップよりも効果があるかもしれない。

   中小企業では、育児休業の取得に伴って解雇される「育休切り」も横行しているのが現状だが、秋谷氏は経営者に意識の転換を呼びかける。

「世代によっても異なりますが、『当社にはそんな余裕はない』『育児休業の効果が分からない』という経営側の意識もあるようです。労働力人口の減少時代を迎える前に、考え方を切り替えて、会社と労働者との双方にメリットのある施策を取り込んでほしいと思います」