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海外勤務命令に従ってくれる社員をどう確保するか

   事業の成長エンジンを海外に求める会社が増えている。現地の駐在員事務所を支店に格上げし、本格的な事業展開を図ろうとするところもあるようだ。しかしある会社では、会社の海外シフトに人材が対応しきれるかどうか不安だという。

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「親が反対」と赴任を拒否

――製造業の人事担当です。当社はこれまで国内での売り上げが多く、海外は2割弱に過ぎませんでした。しかし、内需回復の先行きが不透明な中で、会社として海外売り上げを4割にまで増やしていこうとしています。
   そこで海外勤務に対応できる人材を増やしたいのですが、国内向けの仕事が多かったこともあり、社員からの抵抗も小さくありません。これまでは少数の案件に対して希望者は十分足りていたのですが、今後は不足も予想されます。
   先日も業績優秀な数名を選抜して、成長著しいアジア地区への赴任を打診したところ、若手のA君が「治安が悪いので親が反対している」、主任のBさんは「子どもの教育があるので」という理由で断りを入れてきました。
   業務命令なので説得して行ってもらう場合がほとんどですが、中にはどうしても行きたくないと異動を申し出たり、退職したりするものまで出ています。彼らをどう説得するかは、まだ決めていません。
   以前は欧米なら考える、という人もいましたが、最近は地域に関係なく行きたくないようです。言葉や食事の問題で不安を訴える人もいますが、もう立派な職業人なのですから、まずは自分で対処法を考えてもらいたいところです。
   海外勤務希望者が少ない地域では、3~4年の赴任予定が10年近くにまで延びてしまっている人も。経済がグローバル化し会社が海外市場での生き残りをかけているというのに、社員の思わぬ「抵抗」にあって苦労しています――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
海外勤務経験者を抜擢しキャリアパスを示す

   生活の変化を嫌う人にとって、海外勤務はネガティブなことなのかもしれません。人事としては、海外生活への不安を軽くすることと、海外経験へのインセンティブを準備することの両面で、抵抗感を和らげることに貢献できます。

   カルチャーギャップや安全衛生に関しては、以前より神経質になる人が増えています。これまで個人任せでやってきたことでも、地域の状況が変わったりしてリスクが高まっているかもしれません。未知な国への不安がある人には、赴任前に異文化コミュニケーションの研修を受けさせたり、成功者の話を聞かせたりするのもいいでしょう。人事として十分情報収集が必要です。

   インセンティブとしては、給与や手当てを保障し、帰国後のキャリアパスを整備しておくことも不安の緩和につながります。海外勤務経験者を主流の役員として抜擢するなど、形として示すことも考えられます。また、社長が海外戦略の必然性を繰り返し説明し、組織に浸透させていくことも重要です。

臨床心理士・尾崎健一の視点
家族も含めたバックアップ体制を作る

   海外での生活に対して、会社が全面的にバックアップする姿勢を示すことが、海外勤務に対する不安を取り除く有効な手段です。単身赴任の場合は、身の回りの生活雑務を支援し、日本との連絡手段を取りやすくしたり、帰国の機会を定期的に確保したりするなどの配慮によって安心感を得やすいでしょう。

   特に注意が必要なのは海外勤務に家族帯同で赴く場合で、家族の安全や健康にも配慮する必要があります。本人ではない家族の不適応によって帰国せざるを得ない例も少なくありません。事前に現地の政治・文化・環境情報を入手して積極的に提供しましょう。医療、教育、困った時の連絡先などをリスト化したり、過去の赴任者のトラブル解決事例を示したりすると、不安も低減でき、実際の生活に役に立ちます。現地の人々や日本人コミュニティとの交流も、困ったときに頼れる体制づくりとして重要です。政情不安な国では、各国大使館から連絡が入るように準備しておく場合もあります。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。