2024年 4月 19日 (金)

緊急連絡網「なんで住所や職業まで入れるの?」

   前回の続き。ある大都市圏の衛星都市に住むAさん。

   娘が通う幼稚園で、行政が運営するケータイメールの緊急連絡網を発端に、一悶着が起こりました。役所での対応のまずさは、あっという間にママたちに共有されていきました。

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独自で作ることには賛同したけれど

連絡先を記入する用紙が配布されたが
連絡先を記入する用紙が配布されたが

   1週間ほど経ち、幼稚園のクラス委員をやっている人を中心にしたグループが、ママたち全員に対し、ある提案をしてきました。

   行政の緊急連絡網が信頼できないのなら、独自に親のケータイメールによる連絡網を作ろう、というものでした。

「それはいいね、ってことになり、各クラスの委員がまとめ役になって作ることになったんです。
   ママのなかには何人か、ケータイのメールアドレスは個人情報だし、それを仲がいいわけでもない他の個人に公開するのは抵抗がある、という人もいたんですけど、あくまで緊急用の公的な意味合いのものだからと押し切られました」

   さらに1週間ほどして、お迎えのタイミングで、連絡網のための個人情報を記入する用紙が配られました。
   これをきっかけに、大騒動が起こります。

「用紙にはケータイのメアドだけでなく、住所、家族全員の氏名、年齢、職業、生年月日、自宅とケータイの電話番号、職業を持っている人は勤め先の名称と電話番号まで書くようになっていました。
   ケータイのメアドだけを委員に言えばいいと思っていたので、もうびっくり仰天ですよ。公的な意味合いがあるといっても、私的な連絡網じゃないですか。こんな詳細な個人情報を伝えなければならない意味がわかりません」

   ほかにも同様に感じたママは多く、記入を拒否して用紙を突き返そうとする人や、委員に詰め寄って険悪な雰囲気になる人も出てくる始末。

   いったん子どもを家に送り、あらためて幼稚園に集まって議論をしようということになりかけましたが、用事や仕事を理由に断る人が続出、ついには金切り声をあげて言い合いをするママも現れました。

届かないメール問題はどうなった

   騒動の状況について、Aさんはこう説明します。

「私は、どこまで記入するかは各個人の自由にすればいい、でも用紙の管理を誰がどのようにするのかはハッキリさせてほしい、と思ってました。
   ところが、『あなた、これをどこかの会社に売るつもりなんじゃないの!』『そういえば、お宅のご主人はセールスをやってるって言ってたわよね!』などと、本気で詰め寄るママがいて話し合いどころないないし、お迎えもそっちのけの状態。
   幼稚園側は、人手不足を理由に連絡網の運営や個人情報の管理には関わらないっていうし、じゃあ、もう止めましょう、と」

   結局、連絡網の作成は中止、ママたちの間で険悪な雰囲気だけが残ったそうです。

   後にAさんは、なぜあのような記入項目になったのかを伝え聞きました。

   委員の側も決して悪気があったわけではなく、詳細な項目を設けることで秘密が委員の間で共有されることになり、漏洩が起きても委員の誰かがやったとわかるため、結果的に漏洩を防ぐことができると考えたのだ、ということだったとか。

「ホントかしら、とは思いましたけどね。そういう、個人の情報とか秘密とか集めたがるタイプの人って、必ずいるし。
   まあ、主婦っていってもとりわけ小さな子どもがいるとそれなりに忙しいし、いちいち用紙を見返して、あそこのあの人の誕生日は明日ね、なんてニヤリとするなんて姿も想像できないんですけど(笑)」

   深い考えは確かになかったのかもしれないけど、逆に深く考えてケータイのメアドだけにしておいた方がトラブルにならないと気づいた方がよかったのでしょう。

「ケータイメアドなんて、子どもが卒園して関わりがなくなったら変えちゃえばいいですけど、住所や仕事なんてそう簡単には変えられない。    試み自体はそんなに悪くないと思っていたので、ちょっと残念ですね」

   つまるところ、不審者その他の情報は、以前と同じように仲の良いママどうしの間で口コミで伝わっていて、特に問題もないそうです。

井上トシユキ


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井上トシユキ
1964年、京都市出身。同志社大学文学部卒業(1989)。会社員を経て、1998年よりジャーナリスト、ライター。東海テレビ「ぴーかんテレビ」金曜日コメンテーター。著書は「カネと野望のインターネット10年史 IT革命の裏を紐解く」(扶桑社新書)、「2ちゃんねる宣言 挑発するメディア」(文藝春秋)など。
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