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1か月足らずで辞めた営業マンに「手当て」の支給は必要か

   職場の仕事が順調に回っていると、「どの社員がいつ辞めるか分からない」ということを忘れがち。さまざまな可能性に想像を巡らせて、対策をとっておくべきだろう。ある会社では、期待して採用した人が突然退職し、担当者が混乱している。

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働いていない「みなし残業代」払いたくない

――中堅旅行代理店の総務担当です。先日、中途退職で入社した営業マンのAさんが退職しました。
   大手同業他社から転職してきて、わずか1か月足らず。入社したその月のうちに「一身上の都合」で辞めるというスピード退職でした。
   退職後、数日して、Aさんの上司であるB部長が浮かない顔をしてやってきました。

「Aさんから電話があってさ。手当ての支払いはないのか、だって」
   当社では営業職において「事業場外労働のみなし労働時間制」を採用しており、みなし残業手当として月に30時間分を基本給に上乗せしています。
   また、通勤手当は、半年分の定期代を初月に支払うことになっています。
   しかし、あまりにも早く辞めてしまったので、いずれの手当ても支払っていません。社長も「とりあえず基本給を日割りしておけば文句ないよな」と呆れた顔で言うので、それだけは振り込んでいます。
   B部長は、
「みなし残業は1日90分でカウントしてるけど、ほとんどやってないんだから上乗せしなくていいよ。通勤手当だって、せいぜい規定の半年分を6等分すればいいんじゃないの」
と言います。
   人騒がせなAさんに対する憤りは理解できますし、社長も怒っているのでB部長の言うとおりにしてしまおうかとも思いますが、後から揉めるのも困ります。こういうとき、どうしたものでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
一番のリスクは「揉めごとが長引くこと」

   私も人事部で入退社の手続き業務をしたことがあるので、B部長や担当者の気持ちはよく分かります。しかし一番のリスクは、退職後に揉めごとがいつまでも続くことなのです。特に次の勤め先が決まっていない人は、金銭面に神経質になります。ルールに則って処理を行い、迷った場合には少しくらいなら妥協して支払っておいた方がいいという判断もあると思います。

   今回のケースで言えば、みなし残業代は支払っておいた方がよいでしょう。みなしとは「実際の残業時間の多寡にかかわらず」という意味ですので、月の給与に含まれていると解釈されてしかるべきです。定期代は、1か月分の定期代を支払うか、出勤日数分の往復の交通費を支払っておいた方が無難と思います。

   退職者がいつまでもクレームを寄せてきて、業務の妨げになることはよくあります。在職者にとって生産的でないことは、早めに手を打ちましょう。もちろん「ゴネ得」になるような要求に従う必要はありません。

臨床心理士・尾崎健一の視点
いつでも退職者が出ることを前提にルール化を

   経営者や管理者としては、これほど短期で辞める人が出たことの理由をいちおう反省しておいた方がよいと思います。会社側に問題があったのかもしれませんし、もっぱらAさん側の問題かもしれません。Aさんが悪かったにしろ、採用時にチェックする方法もあったのかもしれません。

   とはいえ、不況下でも人材の流動化は加速しており、退職や中途入社は今後「常態」に近くなっていくのではないでしょうか。特に中小企業では、事業環境に合わせた人材調達・調整に成功するか否かで、会社の成長が左右されることもあります。

   今回のケースを教訓に、退職者が出たときの手当ての精算ルールなどをいまいちど固めておいた方がよいと思います。総務・人事担当者としては、感情としては納得できないことも、ルールに則って処理することが業務の専門性といえる場面もあることを認識してください。社長も上司も、会社のリスクを含め、これから起こりうる人材の流動化に心構えをしてください。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。