J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

遅まきながら「東京脱出」を考え始めた日本企業

   震災の影響による電力不足の長期化をおそれ、名古屋や大阪などに会社機能の移転を検討する会社が徐々に増えているようだ。

   まっさきに東京を飛び出して揶揄された外資系企業だったが、いまになって日本企業も追随している。危機対応やリスク評価、経営者の判断について、日本企業でも見習う点があるのではないか。

「外資は電力不足まで見越していた」

事業への悪影響を軽減する機能移転は当然だ
事業への悪影響を軽減する機能移転は当然だ

   地震の直後、SAPジャパンやアウディジャパン、H&M、イケアなどの外資系企業が、東京オフィスを一時閉鎖したり、西日本に業務機能を一部移管したりした。いまも大阪に機能移管を続けている会社もある。

   これに対する批判は一部で強くあり、サッカー元日本代表のラモス瑠偉氏が、

「東京から逃げるヤツや海外に逃げるヤツは、二度と来るんじゃねぇよ」

と怒りをぶちまけたことが話題となった。

   ラモス氏の発言に対し、ネット上には「よくぞ言ってくれた!」「ラモスさんかっこいい」と共感する声がある一方で、脱出は悪くないという反論もあった。

「自分の生命や健康に危険と判断したら、逃げるのは当たり前だろ」
「東京の負担を少しでも減らすために、西日本に散らばった方がいいよ」

   都内中堅商社の総務担当A氏は、外資と比べると自社の危機管理は不十分だったと反省している。

「わが社で『放射能は来るのか、来ないのか』と騒いでいる間に、外資は電力不足まで見越して移転の手はずを整えていた。電気がなければ交通も止まるし、オフィスの業務環境も悪化する。ビジネス上のリスクを見据えて合理的に判断したのでしょう」

   最近になってA氏が、役員会からの要請で大阪の賃貸物件を調べたところ、自社が希望していたエリアのめぼしい場所は、外資を含む大手企業に押さえられていることが分かったという。

経済同友会も「本社機能分散」を呼びかけ

   西日本に移住すれば、節電生活を強いられることもなく、オフィスも機械もフル稼働できる。輸出産業の場合、製品から放射性物質が検出されるおそれもあり、東日本で生産している限りモノが売れなくなると指摘する人もいる。

   ただ、西日本ですら安泰ではなく、イタリア税関が愛媛県のタオル輸出業者に「放射能非汚染証明」を要求したという報道もある。

   A氏が知人の外資系社員に聞いたところ、その会社の従業員には「危機対応ガイドライン」が配付され、危機のランクごとに取るべき行動が示されていたという。

「非常事態が起きたとき、顧客と会社の重要な資産を守り、従業員とその家族の安全を確保しながら事業を継続するために、どんな準備をしておくべきなのか。外資はあらかじめ検討していたのだと思います」

   ゴールドマンサックスの「グローバル業務継続計画」には、極めて重要な業務に対しては、代替施設となる「業務復旧施設」を世界中に設置し、業務の続行に必要な設備や機能を常に備えている、と書かれている。

   経済同友会の桜井正光代表幹事は3月29日の記者会見で、「企業の本社機能が東京に集中していることについて、危険分散や電力の観点から、名古屋や関西などに本社機能を分散することを考えなければならない」と語ったが、大手でも対応が後手に回っているという印象は否めない。