2024年 4月 19日 (金)

日本はとても暮らしやすく魅力的な国なので、海外に行く必要なんてない

   最近、「このまま日本が停滞し続ければ、金持ちは外国に逃げるんじゃないか」とか「優秀者は海外で勝負するしかない」という意見を耳にすることがある。確かに、世代間格差とか一向に進まない構造改革なんかを見ていると、日本の展望は決して明るくはないように思える。

   ただ、個人的には、彼らが海外に逃げ出す可能性は、現状では非常に少ないと思う。理由は簡単。彼らエリートにとって、日本はとっても暮らしやすい国だからだ。

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税金は安いし、雇用は定年まで保証される

   たとえば大手企業に勤める30代、専業主婦の妻と小学生の子供1人を持つ年収800万円の正社員・鈴木さんがいたとする。給与所得控除200万円に、配偶者控除、扶養控除、基礎控除で114万円、社会保険料で80万円強が控除されるから、実際の課税ベースとなる所得は400万円を切るはず。

   この金額なら所得税率は20%で、所得税+住民税で約77万円。年収の10%以下だから、はっきりいって先進国の中でもかなり安い方だ(子ども手当含まず)。

   ついでに、鈴木さんは昨年、ローンで5000万円を借りつつマイホームを購入していたとしよう。09年より住宅ローン減税が実施されているから、2010年までにマイホーム購入して入居した人であれば、年度末ローン残高の1%、最大年50万円の税額控除を10年間に渡って受けられる。“所得”ではなく“税額”控除なので、上記の所得税77万円から約50万円を引いた27万円が最終的な税金となる。

   賃金が下がることもなくクビになることもなく、5000万円でローンを組めるほど豊かな鈴木さんに課せられる税金が、年収のたった3.3%である。有り難いことに、消費税も先進国随一の安さだ。

   はっきり言うと、(所得税率の跳ね上がる)超高給取りではないけれどある程度の収入が保証された人間にとって、日本はとても美味しい国である。

   読者の中には、そんなに税金の安い小さな政府で大丈夫なの?と思う人もいるかもしれない。でも心配はご無用!

   「定年まで雇用してあげなさい」という具合に、国が民間企業に社会保障をアウトソースしてくれているからだ。だから、僕の大学時代の友人たちの多くはみな、キャリアアップとか格差社会なんてキーワードは気にすることなく、平和で満ち足りた人生をだらだらと過ごしている。

無産政党も大企業エリートの味方

   確かに、これからの時代、大企業であっても万全とは言い難い。

   でも東電の処理プロセスからも明らかになったように、基本的に大手についてはいざとなったら“税金”という名の「大手企業限定セーフティネット」で救済してもらえるので、国に余力があるうちはセーフティネットの心配なんてしなくていい。

   むしろ、誰もが安心して使えるセーフティネットなんて整備されたら、その分の負担が増えてしまう。年金が破たんして支給額が半分になったとしても、係長くらいで定年を迎えたとしても、こういった大企業の正社員ならそこそこの貯蓄ができているはずなので、カツカツの暮らしはできるだろう。

   組織に属さないアウトサイダーや、経営者、完全年俸制の外資で活躍している人たちは、そもそも社会保障なんて必要としてないので、彼らはただ日々の負担が少ないことに感謝しつつ、自由に人生を謳歌している。

   ついでだから言っておくと、社民党や共産党という無産政党も、もちろん我々エリートの味方だ。本来の彼らのイデオロギーからすれば、終身雇用という民営社会保障システムを廃止して国営化に切り替え、そのためのコストは消費税等で負担しろと主張するのが筋だ。

   でもなぜか彼らは終身雇用の維持を強固に主張し、民間企業によるチェリーピッキング(社会保障対象者の選別)を黙認してくれている。

   つまり、お荷物になりそうな人間は採用段階で徹底排除し、利益という果実は内部メンバーのみで分け合えるわけだ。結果的に負担の少なくて済む大企業エリートは、彼らに感謝しないといけない。

   最近だと、原発停止による電力コストアップで産業の空洞化を強力に推進中だが、それで職を失うのは工場労働者や生産性の高くない事務職で、もちろんエリートは何の心配もいらない。

今のところ、エリートの選択は合理的である

   というわけで、彼らエリートがいつまでたってもこの国にとどまり続けているのは、それがもっとも美味しいから。草食化というよりも、ここに十分な肉があるというのが理由である。

   終身雇用を保証できる会社に入社できた勝ち組や、自分で稼げる能力のある強い人にとって、日本はこれまでもこれからも、平和で魅力的な国であり続けるだろう。

――以上、「日本はとても暮らしやすく魅力的な国なので、海外に行く必要なんてない」、サブタイトル:「あるいは、先進国のくせに年3万人が自殺する理由」。


※正確には、現状の国民負担ではすべてのコストは賄えず、赤字国債という形でツケを先送りし続けているのが実情だ。よって、エリートの海外流出が起きるとすれば、財政が行き詰まり大増税と歳出カットが実現する時だろう。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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