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「熱中症で労災申請するの?」 人事に嫌がられました

   頭痛や吐き気、めまいや失神を引き起こし、死に至ることもある「熱中症」。仕事中の熱中症が原因で死亡する人は年間20人前後、4日以上休業する人も300人ほどにのぼるという。

   ある会社では、熱中症で倒れた社員が労災申請をしようとしたら、人事の担当者から疑いの目を向けられたと憤っている。

二日酔いを疑われ「仕事が面倒なの?」

――この春から建設会社で働いているものです。いまはゼネコンから請け負った、とある建設現場の実作業に通っています。

   現場では「安全第一」と口酸っぱく言われていますが、慣れない仕事ということもあり、毎日小さなケガは絶えません。

   また、この夏場は現場の暑さに閉口しました。現場監督からは「休憩をしっかり取れ」「水分を十分に摂れ」と指導されていますが、工期が厳しいこともあり、徹底できていません。

   熱中症で倒れて病院に担ぎ込まれ、通院する同僚や先輩も出ました。同僚のA君が、医師から

「現場で倒れたの? じゃあ労災申請した方がいいかな」

と言われたので、人事に相談したところ、

「その日倒れたのは、あなただけですよね。前の日に飲みすぎて二日酔いとかではなかったですか?」

と疑念の目を向けられたり、「現場監督から『昔は熱中症なんて病気はなかった』なんて言われませんでしたか?」とイヤミを言われたりしたそうです。

   どうやら、担当者が労災申請を嫌がっているようなのです。自分の仕事が増えて面倒というのなら、ホントに職務怠慢、言語道断だと思うのですが――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
労災の件数が多いと、会社にデメリットがある

   業務に起因する病気やケガをした場合、労働基準監督署に「業務災害」(労災)を申請して認められると、治療費や休業補償などが支払われます。労働保険の加入者であれば当然受けられる権利なので、躊躇する必要はありません。

   人事部にイヤミを言われたようですが、それは労災の件数が多いと会社にデメリットがあるからです。一定の要件に該当すると、会社が支払う「労働保険料」が上がりますし、労基署から再発防止の指導が入る可能性が高くなります。大きな労災を起こした場合には会社の取引が止まったり、入札制限の対象となったりすることもあります。

   だからといって普通の病気として処理するなど、会社の「労災隠し」に手を貸すべきではありません。労災かどうかの判断は労基署がすることです。もし会社が労災申請に協力してくれない場合には、その旨を記した文書を添えて労基署に申請を行うと、受理された上で会社への指導が行われることがあります。

シニア産業カウンセラー・尾崎健一の視点
熱中症が労災と認められるための条件

   「業務中であること」「気温が高い時間帯と場所で起きていること」「症状が他の健康問題によるものでないこと」――。熱中症が労災と認められるためには、こういった要素を満たす必要があります。人事部の「二日酔いだったんじゃないの?」という発言は、労災によるデメリットの懸念もあるでしょうが、同僚のA君の症状と、作業内容や当日の気温との間に本当に因果関係があるのか確認する意味もあったのではないでしょうか。

   もし本人に問題がなかったとすれば、作業環境の配慮が足りなかったことになります。死者が出てしまっては、会社として大きな問題となります。人事部は、現場監督に熱中症の危険性を理解させるとともに、働く人にも危機感を持って自衛するよう説明すべきでしょう。人員配置の再考を提言する必要もあるかもしれません。ここ数年の異常気象で、都市部で熱中症が起きやすくなっています。「昔はなかった」ということでは話が通りません。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。