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「嫌われ仕事」はブルーオーシャン! 実はおトクなことばかり

   先日出版された『自分を磨く「嫌われ仕事」の法則』(唐鎌謙二著)という本に、事例として紹介していただきました。「嫌われ仕事」とはズバリ、人気がなかったり、お客様に疎まれたりして、人に嫌われるお仕事のこと。著者の唐鎌さんは、さまざまな「嫌われ仕事」を経験した後、現在は「雨漏り修理のプロ」として活躍されています。

   この本で、督促の仕事はありがたいことに「キング・オブ・嫌われ仕事」と呼んでいただきました。けれど私は、この仕事のおかげで、今までとても恵まれた経験をさせていただきました(この連載も、そのひとつです)。そう考えると、実は「嫌われ仕事」には、いろんな魅力が隠れているのではと思うのです。

「督促だけはイヤ」と蔑まれ、成績もビリ

「うわっ…私の成績、上がってる」(イラスト:N本)
「うわっ…私の成績、上がってる」(イラスト:N本)

   もともと私も、督促という仕事に望んで就いたわけではありません。シューカツで「人にありがとうと言われる仕事がしたいんです!」なんて訴えていたのですが、就職氷河期にそんな甘っちょろい要求をする学生を採ってくれる企業などなく、見事に全滅。

   やっと拾ってもらった信販会社に就職したら、配属されたのはめったに「ありがとう」という言葉を聞かない、延滞顧客への支払督促を行うコールセンターでした。

   一緒に200人近い学生が採用され、他の同期はビシッとスーツを着こなして華やかな営業を行う支店や、もくもくとカードを印刷する配送専門部署など、様々な部署へと配属されていきました。誰もが一様に、

「コールセンターにだけは行きたくない」
「督促だけはやりたくない」

とささやいていました。その頃、コールセンターは「営業ができないヤツが配属される所」「店舗への配属から漏れた女子が行くところ」(当時店舗は美人ばかり配属されていたので顔判断と思われていた)などと、散々に言われていたのです。

   そうして配属された先でも、私はダントツに仕事ができなくて、回収成績は同期の中でビリ。督促どころかお客様を怒らせてばかりいました。入社3か月を過ぎ、うつむいて「こんな仕事向いてない」「辞めたい」とばかりつぶやいているころ、

「ごめんね、エヌモトちゃん、私こんな仕事もう無理…」

   同じチームで督促をしていた唯一の女性の同期だったAちゃんが、会社に来なくなってしまいました。

仕事を続けているだけで認められる世界がある!

   Aちゃんは美人で頭もよく、男性社員の人気もあったし、回収の成績も私の倍くらいありました。それなのに…。そこから堰を切ったように、同期や同僚が会社を辞めていきました。突然会社に来られなくなり、退社の手続きすらしないまま、いなくなってしまった人もいました。

   人が減って風通しの良くなったコールセンターで、ある日私は成績表を見上げました。

「え、上がってる…」

   仕事ができる人が辞めた結果、皮肉にも私の回収成績はどんどん上がっていったのです。

   仕事を続けているというだけで、上司にも評価されるようになりました。我ながら「なんてハードルが低いんだ」と思いますが、生まれて初めて仕事を誉められた私は、嬉しくて眼がしらが熱くなりました。

「誰もやりたがらないから、みんな辞めていってしまう。仕事を続けているという、ただそれだけで認められる、評価される世界があるんだ」

   督促をしていると言うと、「大変だね」「よくできるね」と言ってもらうことがあるのですが、いまでは「こんなにブルーオーシャンで(競争者が少なくて)おトクな世界もないなあ」と半ば本気で思えるようになっています。

   他に働き口のある頭のいい人は、みんな辞めていってしまうし、あえてこの仕事を選んで参入してくる優秀な人も少ない。コツをつかめば長く働けるし、転職もできる。機械に置き換えられる仕事でもない。ほめてくれたり、面白がって本に取り上げてくれる人もたまにいる。

   そう考えると「嫌われ仕事」は、実はとてもおいしいお仕事なのではないでしょうか。督促の他にも、そんな仕事がどこかに隠れているのかもしれません。

N本(えぬもと)

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