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産休中だが解雇したい 頼れる社員の「裏の顔」発覚

   上司から見ると頼りないが、現場の人たちから深い信頼を寄せられている人がいる。それとは反対に、テキパキ仕事をしていて感じよく見える中堅社員が、実は後輩からの評価がすこぶる悪い、というようなケースもある。

   ある会社では、管理職が部内で面談をしたところ、長期休暇中の社員に対する悪評が続出し、どう対処すべきかと頭を悩ませているという。

「部長への密告がバレたら」と泣き出す人も

――飲食チェーンの人事です。ひと月前から産休に入っている30代の女性Aさんのことで、マーケティング部長から相談を受けています。先日、部内の面談を行った際、多くの部下からAさんの「問題行動」について訴えを受けたそうです。

   Aさんはマーケティング部で一番長く働くスタッフで、仕事を熟知する「頼れるベテラン」。しかし後輩の女性社員の話によると、裏では仕事の押し付けやいじめ、ミスの隠蔽などをしていた疑いが出てきました。

   半年ほど前に問題となった大口の失注も、報告されていた「先方の事情」ではなく、実はAさんの対応不備に原因があったと指摘する人もいました。もし事実であれば、会社に対して相当大きな損害を与えたことになります。

   訴えを受けた部長が「何でもっと早く言ってくれなかったの?」と尋ねると、

「Aさんは有休も取らないで、朝から晩まで会社にいて、他の社員の動きを監視してるんです。疑わしい行動を取ったらこっそり呼び出されて詰問されたり、仕事で嫌がらせを受けたりするので、みんな怖がっているんです」

という返事が。中には「部長に密告したことがバレたら、私どうしよう…」と、面談中に泣き出す社員もいたそうです。

   部長の話を聞く限り、最悪で「解雇」もありうる問題だと思いましたが、産休中は解雇できない決まりがあったはずです。でも、産休中なら問題社員も処分できないというのは、ずいぶんおかしな話ではないでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
産前産後は解雇できないが、解雇予告はできる

   「問題行動」はあくまで疑いということですが、仮に解雇に当たるものだったとして、いつ処分できるかについて検討します。産前産後の休業期間とその後30日間は、労働者の責めに帰すべき事由があっても、解雇はできません(天災事変などやむを得ない事由があって事業の継続が困難な場合を除きます)。しかし、解雇予告には制限がありませんので、今回のケースでは、産後休業後30日を過ぎた日に解雇できるよう、休業中に予告をすることが考えられます。

   ただし、解雇予告をする前に、本人から事情を聞き、必要に応じて会社からの説明を行う必要があります。その際に、問題行動が事実で解雇事由に該当する場合でも、職場に戻ることが難しいと本人も認めているのであれば、無用な摩擦を生まないために、まずは退職勧奨から切り出すことも考えられます。

臨床心理士・尾崎健一の視点
不正発見のしくみとして「長期休暇」を組み込むことも

   今回の件は部長の管理責任も問われるべきですが、すべての部下の行動を逐一監視することは困難です。ハラスメントや不正は長期休暇中に発覚することがあるので、定期的に長期休暇を取らせて、これをしくみ化することも考えられます。

   長期休暇の目的には、従業員のリフレッシュやワークライフバランスの促進だけでなく、仕事上の不正や癒着がないことや、仕事の属人化リスクがないかのチェック、雇用維持のためのワークシェアリングなどが考えられます。欧米では、長期休暇中に別の担当者が業務を行い、人員と仕事量のバランスが適切であるか(仕事がキツすぎないか、さぼっていないか)のチェックを行う会社もあるようです。

   なお、長期休暇中の社員を「欠席裁判」にかけて「無実の罪を着せる」ことがないよう、処分を行うときには本人からの丁寧な聴取を欠かさないようにしましょう。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。