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日本にも「プロフェッショナルな公務員」が必要だ

   先日、久しぶりに東京大学の門をくぐった。地方行政の財務改革に関する公共政策大学院の公開講座に、パネラーとして招かれたからだ。モダンなセミナー・ホールが新しくできていた。300人近い出席者を前に、コーディネーターの上山信一・慶応義塾大学教授、パネラーの小林慶一郎・一橋大学教授にならんで、僕は末席を穢していた。

   なぜ、地方財政が苦しいのか。人口減少社会の中、どうしたら長期にわたって持続可能な自治体経営ができるのか。そうした質問に自分なりに答えていく。答えながら、僕はいつも思う。自治体にもCFO(Chief Financial Officer)が必要だ、と。

イギリスの自治体にはCFOが置かれている

(カット:長友啓典)
(カット:長友啓典)

   実は、イギリスの自治体にはCFOがいる。法律の定めにもとづいて、自治体CFOを登用しなければいけないのである。まるで、大企業のようである。

   しかし、よくよく見れば、自治体は巨大な資産、負債を抱えている。毎年の予算も何兆円にものぼる。資産規模からすると、東京都とトヨタ自動車は同規模だ。大阪市と東京電力、横浜市と日産自動車もそれぞれ同規模である。

   それだけ巨大な財務を扱うのに、CFOがいても決しておかしなわけではない。むしろ、覚めた目でみれば、いない方がよほどおかしい。ところが、財務部、財政部という部門はあっても、会計処理や出納業務にとどまらない財務マネジメントまで行っているところは、僕がかかわった限りではほとんど見かけなかった。

   イギリスのCFOは、自治体の財務の総責任者である。企業のCFOと同じように、自治体が公共事業であっても福祉事業であっても、何かの事業を行う際には、CFOのサインが必要になる。また、おカネの調達責任者でもある。CFOの采配で、自治体経営が大きく左右されることにもなる。自治体の財務報告書は、首長ではなくCFOのサインで出される。

   イギリスの自治体CFOは、プロフェッショナルな職業でもある。まず、イギリス公会計士協会に所属している会計士であることが求められる。一般的には公募によって採用され、さまざまな自治体の財務部門を渡り歩き、キャリアアップしていく。当然、本人の能力、実績の勝負になる。

   だから、同じ自治体に長年勤めたために役所内の人間関係が優先されて、思い切った決断ができないということは、基本的にはない。組織のしがらみを離れ、客観的な判断がくだせる。

不要な公共投資を減らし、柔軟な資金調達も増やせる

   ロンドン市(Greater London Authority)ともなると、CFOは15万ポンドくらいの年棒となる。市長よりも高い。今でこそ、為替が1ポンド120円くらいだから1,800万円程度だが、少し前なら3,000万円プレイヤーということになる。

   それだけ支払っても、プロフェッショナルな能力にもとづいて職務をしてもらう方がよいと、彼らは考えているわけだ。予算が何兆円という組織で、ちょっとした財務改革をするだけで、CFOのコストは無視できるくらいに小さなものにしかならない。

   日本でも、はやくこうした自治体CFOを登用していくべきである、と僕は心底思っている。それこそが自治体経営を改革するときの本質だと確信している。

   自治体CFOをできる能力のある人は、世の中に実はいっぱいいる。大手のメーカーでCFOをされた方などは、最適ではないか。10年、20年を見越した投資意思決定をよりよくできるはずだと思う。

   自治体CFOを置くことで、不要な公共投資がなくなるかもしれない。今後の社会福祉費用の増大にも、政治とは切り離した具体的な改善案が出てくるかもしれない。足りないおカネの調達だって、「10年固定で集めるのがよい」という一般的な思い込みを覆すことができるはずだ。

   自治体という、一見すると古色蒼然とした組織にこそ、CFOというプロフェッショナルが必要なはずなのである。僕は、そう願いながら、府市統合本部の特別参与としてふたたび大阪に通うことになった。


大庫 直樹