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「高速飛ばして行くから待ってろ!」 債権回収OL恐怖の日

「わかった。そこまで言うなら、直接会って話そうじゃねぇか。エヌモトとかいったな。今から高速飛ばして行くから、待ってろよ!」

   督促を始めてまだ日の浅かったある日のこと。私はなかなか支払いをしてくれないお客さまに食い下がって、入金のお願いをしていました。この時は、いつもすぐに言い負かされてしまう私にしては珍しく、支払い日を延ばそうとするお客さまに必死に食らいつき、交渉が長時間におよんでいました。

「だから、×日に払うって言ってんだろうが!」
「い、いやいや、そこを何とか…!」

「今、インターまで来た。もうすぐ着くからな」

ここに来るって?まさか、冗談だよね(((;゚Д゚))(イラスト:N本)
ここに来るって?まさか、冗談だよね(((;゚Д゚))(イラスト:N本)

   やり取りを続けること数十分。言うことを聞かない私にしびれを切らしたのか、とうとう相手は捨て台詞を残して電話を切ってしまいました。

   (え、ここに来るって…? まさか、冗談だよね…?) 長時間の交渉で、緊張しっぱなしで汗だく。そのうえ嫌な汗が出てきました。

   コールセンターの住所は、お客さまに送られる督促状にバッチリ記載されています。会社のホームページにも載っていますし、「どこから電話かけているんだ?」とお客さまから聞かれたら、情報開示として正確な住所を言わなければなりません。

   というわけで、お客さまが来ようと思えば、私の職場には簡単に来れてしまうわけです。

   (き、きっと冗談だよね!) 自分に言い聞かせて仕事に戻りました。嫌な事は頭から締め出そうと必死です。でもそれからしばらくして、一本の電話がかかってきました。

「N本さーん、お客さまから電話入ってるよー」

   名前を聴いてびっくり。先ほど電話を切られてしまったお客様でした。思わず硬直している私を不思議そうに見ている同僚から、なんとか電話を受け取ります。

「あ、○○さま…ですか?」
「ああ。今、××インターまで来た。もうすぐ着くからな」

   ひぃ! ほ、ホントに来てる!? しかも××インターって、結構近いー!

   この時、必死で考えていたのは、とりあえず家族に危害が及ぶのだけは避けなければ、ということでした。私の家は会社のすぐ近くだったのです。もし後をつけられたりしたら、家に火とかつけられたりしたら、ど、どうしよう…!

オペレーターが道順を教えてしまった…

   一気にそんな嫌な妄想が止まらなくなり、上司に報告しに行きました。でも、私の上司、こういうことにあんまり真剣に取り合ってくれない人なんです。案の定「あ、そう」と言われただけ。

「とりあえず会社の中は、警備がいるから安全だよ~」

というありがたいお言葉をいただきましたが、もし何かあったらどうするんだー! そんな憤りを感じつつ、定時までびくびくしながら過ごしました。

   その後も何回か「今近くにいる」「もうすぐ着く」という電話が入り、道順を尋ねられて丁寧に教えてしまったオペレーターさんもいたのですが、結局、会社には現れませんでした。本当に近くまで来たのか、ただの脅しだったのか。

   督促をしていると、こういった事がたびたびあります。社屋の前にガソリンが撒かれていた事もありました。少し前なら「山田」や「田中」という共通の偽名も使えましたが、現在はコンプライアンスの観点から本名以外を名乗ることは許されません。

   この仕事をしていると、人に恨まれる事は避けられません。正直言うと怖いです。でも、今思えばお客さまを逆上させた私は、まだまだ未熟だったのです。相手に恨みを抱かせない督促ができるようになって、やっと一人前だと言えるのかもしれません。

   でもホント、襲撃予告だけは勘弁して下さい。私に直接会いに来ても、お客さまの支払日は伸びたりしないですから…。

N本(えぬもと)

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