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新広島市民球場が「異例の低金利」で資金調達できた理由

   この数年、自治体の仕事をしていて、感銘を受けたことのひとつに、新しい広島市民球場の建設がある。この球場の建設費は、広島県と広島市が発行した地方債に依存している。日本の地方債は、基本的にはどんぶり勘定で、必ずしも何に使うかひもづけられた契約はない。そのときも、どんぶり勘定の地方債が、球場建設の歳出増を賄うためのものとして発行された。

   なぜ、僕が感銘したか。その地方債の発行コストがものすごく低かったからだ。球場建設の歳出増に対応する地方債の応募者利回りは1.03%だった。同時期の国債の応募者利回りは1.20%なので、国債より低い金利で資金調達ができたことになる。一般的には自治体は国よりも信用が低いので、地方債の金利は国債より高くなるが、市民球場の場合には、地元住民に支持された事業だからこそ、こうしたことが起きたということである。

   しかも募集金額以上に応募者がいたから、抽選になったという事実も忘れてはいけない。逆に、市場原理にもとづく資金集めしかないとすれば、地元住民に支持されない公的事業は実行できないかもしれない、ということでもある。

市民の意思を反映する米レベニュー債

(カット:長友啓典)
(カット:長友啓典)

   米国には「レベニュー債」という地方債のしくみがある。各自治体、つまり州、カウンティ(郡)、市などが個別の事業、つまり道路、水道、病院などの建設費用などを賄う資金集めのために発行される地方債だ。自治体ごと、事業ごと個別に発行されるため、種類も豊富となる。

   レベニュー債の返済資金は、それぞれの事業の収益から原則賄うことになっている。返済の確実性は個別の事業に依存することになるので、個別のレベニュー債ごとに金利はまちまちになる。

   当然ながら、水道事業のように、絶対に必要な事業で独占性が強いものの金利は低くなる。逆に民間事業と競合して、事業運営が難しい病院などは金利が高くなる。

   金利が高い事業は、事業を行うことが難しくなるから、自治体はその事業を行うべきかどうか、慎重に見極めなければならなくなる。自治体の思い、もっと端的に言うなら、その事業の担当者の「やりたい」という思いだけでは、できない。

   言い換えれば、金融市場(金利)を通じて、事業実行の是非を市民に問うフィードバック回路が出来上がっているということになる。

   日本において、レベニュー債導入は自治体からみてネガティブにとられることが多い。自治体で事業をする側からすれば、レベニュー債は一般的には現在の地方債金利より高くなり、資金調達コストの負担が増すからだ。同時に地元住民に支持されていないことがあからさまになることもありうる。

貸出コストが1冊1000円の図書館事業は妥当なのか

   ただ、金融市場(金利)を通じた事業実行の是非を問うというスタンスに立てば、金利があまり高くつくような事業は、金融市場では返済の不確実性が高い、あるいは事業そのものの必要性に疑義が挟まれていることを示唆している。

   東洋大学・根本祐二教授の『朽ちるインフラ―忍び寄るもうひとつの危機』によると、図書館が本を貸し出すためのコストは、1冊1000円近く掛かるそうだ。ゆったりとしたスペース、意匠をこらした施設などを思い出すと、それもうなずける。

   そもそも専門書ならいざしらず、文芸書の新刊が並ぶ図書館というのはやっぱりおかしな気がする。それなら、ブックオフかアマゾンの中古で買った方がずっと安いのではないか。

   事業を行う側として、本当に実行すべきかどうか、じっくり考えなければいけない。国債ほどとは言わないが、残高が膨れ上がってしまっている地方債の適正化のためにも、レベニュー債のようなフィルターを通した方がよいのでは、と思う。

   新しい広島市民球場の建設は、圧倒的な住民の支持が得られたから、あのような低い金利で資金集めができた。地域社会を担うプロフェッショナルを育むひとつの策として、日本でもレベニュー債のしくみをうまく活用していくべきではないか、と思う。(大庫直樹)