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「魚の種類を異様に知っている」 生物学専攻でも営業で成功できた

   入社式を経て、配属が決まった新人もいるころだ。予想もしなかった仕事をすることになり、戸惑っている人もいるのではないか。特にお客と直に接する「営業」は、学生時代の知識や経験をいかしにくい場合もあって苦労する人も多い。

   そんな人には、週刊ダイヤモンド2012.4.7号の記事が参考になるかもしれない。ビール会社の営業マンが口べた克服のために、「自分の得意な話題」を使うことに成功した例だ。Tさんは2年前、飲食店を回ってビールサーバーの設置契約を獲得する部署に配属されたが、なかなか業績が上がらない。

「話題が豊富で、話すうちに人柄がにじみ出てくる」

自社のサーバーを売り込むために他社のサーバーと置き換えてもらうことも
自社のサーバーを売り込むために他社のサーバーと置き換えてもらうことも

   もともと口べたな上に、24歳まで英国ロンドン大学で生物学を学んでいたこともあり、社会人特有の日本語に慣れていない。営業先で「しどろもどろになって」しまうことが多かった。決まったフレーズは用意できても、想定していない会話になるとあがってしまう。店員には冷たく追い払われ、次の訪問が怖くなる悪循環に陥り、最初の数か月は契約ゼロが続いたという。

   悩んだTさんは、生物学の知識を生かすことを考えた。春にはスギ花粉のメカニズム、サクラの種類や色などを話題にした。店に魚拓が飾ってあるのを見つけ「釣りが好きな大将」と分かれば、魚の話題を持ちかけた。すると大将は「魚の種類を異様に知っている営業マン」に興味を示すようになった。

   ある飲食店の社長は、ビールサーバーの導入を決めた理由を「Tさんのように何度も来る営業マンは他にいなかった」「(Tさんは)決して饒舌じゃないけど、話題が豊富で、話すうちに人柄がにじみ出てくる」と話している。

   学生の就職支援を行うキャリア教育プロデューサーの新田龍氏も、営業に配属された新人たちの悩みを数多く耳にしてきたという。

「簡単な研修とマニュアルだけで、飛び込み営業をしてこいと言われ、戸惑う学生の話をよく聞きます。自社のやり方を『強引な押し売り』と感じて、『こんな汚い仕事に関わりたくない』と思うようです」

   そのような新人には、「マニュアル」をマスターすることも大事だが、それを流暢に話せれば売れるわけではなく、いかにそこから離れるかを考えるべき、とアドバイスする。

社会人サークルは「営業の練習」の場になる

   具体的に、どのようにマニュアルを離れるのか。新田氏は、自社商品の話題に終始すれば、お客からは「自分勝手な営業マン」に映るので、あえて仕事の話は短く切り上げて、「お客との信頼関係を築くこと」に注力すべきだという。

「まずはお客が興味を持つことに、自分も関心があるという姿勢を示すことです。あらかじめ会社のホームページをチェックするとか、店に入って状況を観察し話題を拾うといったことが重要になります。Tさんのように店の魚拓から店主の趣味を探るのも、営業の王道です」

   売れる営業マンの多くは、最初は仕事以外の話題から距離を縮め、個人対個人の信頼関係を作った後、会話の中からお客が困っていることを探り当てて、自社の商品・サービスを提案する、というステップを踏むという。

「経営者相手なら経営理念、店主なら店づくりのコンセプトを尋ねられて、語りたがらない人はいません。出身地や出身校といった話題も、会話の糸口になります」

   「仕事から入らない営業法」の練習の場として、趣味の社会人サークルや勉強会を使うことも考えられるという。同じ週末ランナーとして親しくなった人が、たまたまクライアントの決裁権のある人で、営業につながった例もある。

「ただし、自分の営業のためだけにサークルに入る人は嫌われるし、会社や人の評判を落とします。あくまでメンバーと趣味を楽しむことを主眼とし、その中から『社会人で大事なのは人間同士の信頼関係だ』ということや作法を学ぶ機会にできればいいですね」