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悩める国々に降り立った救世主・鳩山さん

   先日、鳩山由紀夫・元首相がイランを電撃訪問した。そして大方の予想通り、「日本の前首相、IAEAのダブルスタンダードを批判」というイラン国営放送のリリースが世界を駆け巡った。そしてこれもまた予想通りだが、鳩山さんはイラン政府に「そんなことは言っていないじゃないか」と抗議をし、またまた予想通りイラン政府は陳謝して一件落着した。

   筆者にはポッポ兄さんがイランに行くと騒ぎ始めた時から、こうなるであろうことは分かっていた(勘の良い人はみなそうだろうが)。

メディアは「空いたピース」を埋める人を探している

   意外に知らない人が多いが、記者や編集者、ディレクター等、人に取材してコンテンツを編集する人たちというのは、実は取材する前に、すでに頭の中におおよそのコンテンツを作っている。その中の空いたピースを埋めるために「ぴったりはまりそうだ」と思われる人に取材をし、はまるように誘導し、ベストなコメントを引き出すものだ。

   もちろん、中にはまったく青写真ゼロで話を聞いてゼロベースで組み上げる人間もいるだろうが、平均以上の腕のある編者は、9割型パズルを組んだ上で人に話を聞くものだ。

   こんなことは、メディアに対して発言する人間はよくわかっている。だから、言葉尻を捉えられないように発言は慎重にする。

   たとえば、以前、筆者が某テレビ局に「30代の政治家たち」というテーマで取材を受けた際のこと。すぐに「就職状況が厳しい中、安易に政治に逃げる若者たち」という言質を取ろうとしているなと気付いたので、筆者は頑としてその点には近寄らなかった。

「就職氷河期でなかなか内定も貰えないご時世ですものねえ」
「そうですねえ」

   そんな程度の会話でも、「政治に逃げる若者たち」なんてタイトルで使われてしまうリスクがあるのだから当然だろう(その見方は筆者のスタンスとは相いれない)。

   結局、そのⅤは使われなかった様子だ。期待していたピースに当てはまらなかったのだろう。フォローしておくが、そういう経験は一度や二度ではない。メディアで話すとはそういうことなのだ。

各国に利用されている「都合のいいコメント」

   決して長いとはいえない首相在任期間を見ていても、鳩山さんがそういう「気遣い」のできる人だと考える人は少ないだろう。

   逆に言えば、イランは「先進国の大物政治家で、我々に同情的なコメントをしてくれそうな人」というピースだけを残してパズルを組み上げ、鳩山さんに白羽の矢を立てたのだろう。

   そして見事に鳩がネギしょってやってきたわけだ。鳩山さんに対して陳謝はしても、世界に流したリリースはもう取り消せない。

   北朝鮮やパレスチナやシリアや中国といった、外交や人権でいろいろと問題を抱える地域からすれば、鳩山さんは素晴らしいピースの一枚に見えるに違いない。

   難解なパズルを埋める鍵となるピース、それも先進国の大物という条件を満たすピースは、この人くらいしか見当たらないからだ。きっと今後も様々なアプローチがあるだろうし、本人も二つ返事で出かけそうな勢いだ。

   とりあえず民主党には、鳩を鳥籠に入れておくか、せめて外交顧問の肩書を外しておくことをおススメしたい。(城繁幸)