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「アリ」と「キリギリス」のハイブリッドの国、日本

   先月(2012年3月)発行の拙著『欧米沈没』(マイコミ新書)では、ヨーロッパの国々をイソップ童話の「アリ」と「キリギリス」のタイプにわけてみた。

   アリは夏場に頑張って働いて食べ物を蓄えて、冬に備える。これはドイツや北欧諸国などに多くみられるタイプだ。生真面目で集団行動が得意だが、人生を楽しむのはどちらかというと苦手である。

   一方、夏にヴァイオリンを弾いたり歌を歌っていたキリギリスは、スペインやイタリアなどの南欧の人々を思い起こさせる。想像力と感性で勝負するタイプといえよう。歴史と伝統と自然条件に恵まれた彼らは、美術、建築、音楽、ファッション、グルメ、ワインといった分野で世界をリードする存在となっている。

大量生産で金持ちになり、グルメでもトップに

基本はアリなのにキリギリスでもある日本
基本はアリなのにキリギリスでもある日本

   同書で私は、日本は基本的にドイツなどと同様に、アリの特徴を持っていると書いた。人生をエンジョイするのは得意ではないかもしれないが、真面目にコツコツと働き、貯蓄に励む。

   独創的ではないかもしれないが、均一で信頼性が高いものを作るのが得意(フェラーリではなくトヨタ!)。このおかげで大量生産のモノづくりの分野で日本は一世を風靡し、国民は豊かさを享受することとなった。

   日本には金持ちも多い。それを確認するために「ワールド・ウェルス・レポート2010年版」(メリルリンチ=キャップジェミニ作成)を見てみた。これは世界の富裕層(金融資産が100万ドル・約8000万円以上の人)について分析したレポートだ。

   富裕層の国別上位を見ると、米国310.4万人、日本173.9万人、ドイツ82.4万人、中国53.5万人という順で並んでいる。さすがにアメリカ人が最も多いが、それは人口が日本の2.5倍もあるから。人口比でみると、アメリカの富裕層は100人に1人の割合であるのに対し、日本では73人に1人である。「日本は世界一の金持ち大国」だといってよい。

   しかし日本がスゴイのは、単にアリとして経済的に豊かになったからだけではない。基本はアリなのに、キリギリスのよい点も持ち合わせているのが破格なのだ。

   江戸時代の風俗画であった浮世絵は、その後フランスの印象派を始め、世界のアートに大きな影響を与えた。そして現代でも、現代版浮世絵ともいえる漫画はもちろん、美術、映画、ファッション、さらにはアキバ系に至るまで、日本文化は世界に大きな影響を与えている。

   食事もおいしい。ミシュランのレストランガイドで三ツ星(最高ランク)のついたレストランは世界に106店あるが、日本のレストランが32店も入り1位となる。第2位はミシュランの地元フランス(26店)で、この2国だけで全体の過半数を占める(もちろんフランスもキリギリスの国である)。寿司や天ぷらなどの日本食もすっかり世界に定着した。本書で日本を「食事のおいしいドイツ」と表現したのも、納得いただけるであろう。

   つまり、日本は伝統やアートの面でも秀でているというわけだ。こんな国はちょっと他にはない。

悲観もわかるが、まだまだ捨てたものではない

   もちろん、そうはいっても日本が桃源郷であるはずもなく、問題がたくさんあることは言うまでもない。悲観的になる人の気持ちもよくわかる。アリが勤勉に努力するのも、将来(冬)に対する不安があるからだ。ネガティブな意識がやる気を生むこともある。

   しかし、ここはキリギリスのように楽観的に生きることを目標とすべきだと思う。日本は経済力のみならず、平均寿命、教育水準、犯罪率、政治への国民の声の反映の度合い、言論の自由など多くの点で世界のトップクラスにある。セイフティネットも完備しているので、「成功するかどうかわからないがやってみよう」という前向きな判断が可能だ。

   今の世界を代表する会社といえば、アップルにとどめを刺す。アップルの凄さは、キリギリス的独創性を持った連中が面白がって新しいアイデアを出し、アリ的人々(東アジアに多い)をうまく下請けとして使って製品化して儲ける、というところだと思う。

   アリだけで作ったら、信頼性は高くてもつまらない製品となる可能性があるし、キリギリスだけでは、カッコよくてもすぐ壊れるものになる恐れがある。アリとキリギリスのいいとこどりをしている日本。まだまだ捨てたものではないはずだ。(小田切尚登)