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営業が会社を辞めるのは「居場所」がないから
若者よ、営業に挑戦しよう~高城幸司×大関暁夫対談(上)

   不景気で就職先がないと言われるが、依然として「営業職」の求人は多い。日本マンパワーの調査でも、約8割の日本企業が「人材不足感」を抱いており、もっとも不足感のある職種は営業と答える企業がトップとなっている。

   その一方で、「営業」という仕事が20~30代の若手ビジネスパーソンに人気が高いとはいえない。それは正しい理解に基づくものなのか。ともに営業経験があり、現在は経営コンサルティングに携わる2人に、「営業の魅力」について意見を交わしてもらった。

仕事がきつい、ノルマが厳しいのは他の仕事も同じ

高城幸司(たかぎ・こうじ)セレブレイン代表取締役社長。リクルートの通信・ネット関連営業で6年間トップセールス賞を受賞。その後、日本初の独立起業専門誌「アントレ」を創刊、編集長を務める。J-CAST会社ウォッチで「『稼げる人』の仕事術」を連載中。近著に『入社1年目を「営業」から始める君へ』(日本実業出版社)
高城幸司(たかぎ・こうじ)セレブレイン代表取締役社長。リクルートの通信・ネット関連営業で6年間トップセールス賞を受賞。その後、日本初の独立起業専門誌「アントレ」を創刊、編集長を務める。J-CAST会社ウォッチで「『稼げる人』の仕事術」を連載中。近著に『入社1年目を「営業」から始める君へ』(日本実業出版社)

大関 「若者の営業離れ」なんて言われますが、高城さんも入社前は「営業嫌い」だったんですってね。

高城 ええ。リクルートに入社して「営業担当に任ずる」と辞令を受けたときは、正直ガッカリしました。海外旅行誌の編集職を希望していたので、人事部に「営業だけは勘弁してください。僕は向いてないと思います。押し売りなんてできません」と頼み込んだくらいですから(笑)。

大関 それでも入社以来6年間、営業トップの座を守り続けたのですね。実は私にも似たような経験がありまして、入行後に融資係に配属され、貸付案件の審査などをしていたのですが、ある日支店長から「おまえ預金係をやれ」と言い渡された。

高城 お金を貸す側から、外回りをしてお金を集めてくる側になったのですね。

大関 ええ。やっぱりショックでした。最初はイヤだし結果も出なかったのですが、しようがないから先輩に頼み込んで営業の仕事を一から教えてもらったら、数字が上がるようになった。それからは仕事が面白くなって「営業になってよかった」と思いましたね。そのうち、訪問先で融資の案件も一緒に取れるようになり、行内の評価もグングン上がりました。

高城 会社を辞める人の理由は、職場に「居場所」がなくなってしまうからです。仕事がきつい、ノルマが厳しいだけなら他の仕事も同じです。でも、営業はなぜか「数字さえ上がれば何をやってもいい」と放置されることが多いんですね。特にいまの若い人は、「周囲が何もしてくれない」という状態に非常に弱い。

大関 営業が弱い会社は、経営者をはじめマネジメント層の、営業に対する認識が低い傾向にあります。報奨金だけつけて「いいから数字あげて来い!」みたいなやり方では結果は出ないし、人や組織も成長しません。

高城 今は、きちんとしたOJT(実務経験を通じた訓練)が機能していない職場では、若い人たちは定着しませんよ。その点、あまり干渉されたくなかった僕らの若いころとは違うのですが、だからといって「最近の若者は…」なんて言っても話は始まりません。

「管理の不在」が営業という仕事をつまらなくしている

大関暁夫(おおぜき・あけお)スタジオ02代表。「青山カレー工房」などの事業オーナーと企業コンサルティング、埼玉・熊谷の街おこし「くま辛」など多忙な日々を過ごす。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。J-CAST会社ウォッチで「営業は難しい〜ココを直せばうまくいく!」を連載中
大関暁夫(おおぜき・あけお)スタジオ02代表。「青山カレー工房」などの事業オーナーと企業コンサルティング、埼玉・熊谷の街おこし「くま辛」など多忙な日々を過ごす。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。J-CAST会社ウォッチで「営業は難しい〜ココを直せばうまくいく!」を連載中

大関 若い人たちの営業に対する嫌悪感の源は「恐怖」でしょう。会社で何も身につけることなく、いきなり客先に放り出されることへの恐怖感がある。それを減らすためには、営業にも他の仕事と同じように、基本的な教育や、自社のやり方に関する最低限のマニュアル整備はいりますね。

高城 僕らのときは「1日100件電話しろ!」と言われるとイヤな気がしたのですが、今の若い人は真面目に取り組みます。ただ、組織内の問題があって、きちんとした管理や教育ができていないところが多い。バブル崩壊やリーマンショックによる採用減やリストラの影響で、世代間の断絶があるのです。

大関 それと、管理というと言葉が悪いですが、会社はきちんとしたプロセス管理、行動管理をすべきです。管理の不在が、営業という仕事を訳の分からない、つまらない仕事にしてしまっている。

高城 核家族化も進んでいるわけですから、いきなり知らないおじさんのところに行って話をして来いと言ったって、できませんよね。営業の仕事は広範囲にわたり、あいまいなところもあります。最終的に求められているのは「結果」であり「数字」なんだけど、結果を出すためにやるべきことを棚卸しし、行動を徹底させることが必要です。

大関 お客さんの傾向も時代によって変わりましたね。

高城 昔は上司が怖くて、お客さんは優しかった。でも今は、社内の厳しさが減った代わりに、お客さんが厳しくなっています。何を買うときにでも会社に不利益を与えることができなくなって、「なぜこれを買ったのか」という合理的な理由が厳しく求められます。その影響が営業にも及んでいます。

大関 確かにバブル崩壊以前には、お客さんが今ほど合理性を求めないところがありました。顔見知りや縁故で商談が決まったり、訪問して雑談しながら「これ置いていきますね」なんていうだけで買ってもらえたりした。

高城 今でいえば「内村、金メダル獲りましたね。すごいですね」と言っているうちに、「あ、そういえばいいところに来た」「ちょうどよかった」と言って御用を頼まれるようなものです。

大関 「御用聞き営業」「出会い頭営業」ですね。でも今は、説明を受けて十分理解し、比較して合理性が見出せなければ購入に至りません。

「同じ人に2回以上会ってもらうこと」が大事

宿題に答えていくことで仕事ができていく(高城)/分からないならもう一度行くチャンスになる(大関)
宿題に答えていくことで仕事ができていく(高城)/分からないならもう一度行くチャンスになる(大関)

大関 私の店にも何も下調べせずに営業が売り込みにきて困っています(笑)。事前にウェブサイトを見たり、調べ切れなければヒアリングするのは当たり前のことだと思うのですが、それをせずに繰り返し断られ続ければ、営業がどんどんイヤになります。

高城 相手のことを知らないでモノを売りつけようだなんて、おかしいですよ。お客さんの内情を理解し、かつ客観的な視点から提案ができる営業の言うことは、どんなお客さんだって耳を傾けざるを得ません。ヒアリングが大事なのは、未来のことはパンフレットに書かれていないからです。商談というのは未来に成立することですから、この会社で今後なにが起こるのか、どうしていきたいのかの話を聞かなければならない。

大関 でも、うちの店に来る営業は、「今後こういうことを考えているから、こういう提案をしてくれたら検討したいね」と注文を出すと、二度と来なくなるんですよ。

高城 それは、お話の半分くらいを理解できていないからじゃないですか? 残り半分を理解するためには、もう一度聞きに行かなければならない。でも恥ずかしい。それなら他のお客のところに行こう、ということになる。

大関 分からないなら、もう一度行くチャンスになるはずなんですがね。

高城 そう。たいがいの人は、強く頼めば1度は会ってもらえます。でも、2回目に会ってもらうのは難しい。「同じ人に2回以上会ってもらうこと」が大事です。そのためには、何でもいいから宿題を持ち帰ること。宿題に答えていくことで仕事ができていく。

大関 理想的な提案を、一発で決めなくてもいいんですよね。その場で「できる」「できない」とか「難しい」とか言わなくてもいい。

高城 「すみません、頭悪いんで分かりませんでした。もう一回教えていただけますでしょうか?」と言えば、「しょうがないねえ」と教えてくれるものですよ。そして「持ち帰って上司と相談しましたが、頭が固くてすぐには実現が難しいようです。でも、お話はよく分かりますので、自分なりに考えて説得を続けます。…で、私も仕事なんで、もう一回営業していいですか」とか言えばいい(笑)。

大関 成果を手っ取り早く出したがって、壁にぶつかったら「スルー」して別の客に行く。でも、じきに行くところがなくなる。ストレスはたまらなくていいけど、出会い頭営業だけに頼っていては逆に難しい。

高城 この人と付き合っておけば、将来伸びるから、人脈が広そうだから会っておくという判断ができない。ポテンシャルを測れない。お客さんとの関係は、キャッチボールしながら作っていくものです。自分を「モノを売る人間」と考えていては、営業はできません。