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大阪維新の会と「政界M&A」 国会議員の身勝手許すな

   ロンドン五輪が終わり、隣国のエキセントリックな行動がメディアを騒がせた竹島・尖閣問題も政府間での神経戦に移行しつつある今日このごろ。ニュースの主役の座は、野田総理が「近いうち」と約束した解散総選挙をにらんだ「政局秋の陣」に移行しつつあります。

   「台風の目」はご存じ、橋下・大阪市長率いる大阪維新の会。

「みんなの党との対等合併が決裂」
「安倍元首相に新党代表就任を要請」
「自民、民主の離党予備軍、続々“維新”に秋波」

などなど、与野党入り乱れてのラブコール合戦には、さながら企業のM&Aにも似たムードを感じさせます。この政党の合従連衡、果たしてうまくいくのでしょうか?

政策ビジョンの一致なき合併は長続きしない

   M&Aとは「企業の合併・買収」のことですが、これが長期にわたってうまくいくのは、けっこう至難の技だったりします。目先の売り上げや利益かさ上げを狙って、本業と離れた企業を買収したりすると効果が実現できないものです。

   時間が経つにつれて不満ばかりが募り、「なんでこんな会社と一緒になったの?」と役員会で問題になり、「とっとと売っぱらえ!」となりがちです。企業の大小を問わず、世にこの手のM&Aの失敗例は枚挙にいとまがありません。

   知り合いのM&A専門家は、長期的成功のポイントは「お互いのビジョンが明確かつ一致し、目的が目先の利益追求でないこと」と言っていました。

   M&Aは結婚に例えられますが、「有名企業勤めだから」「美人だから」とお互いが自分の目先の利益だけを考えて結婚すると長続きしないものです。夫がリストラされ、妻の美貌が衰えれば、関係はあっけなく終わります。曲がりなりにも「明るい家庭を作ろう」といったビジョンの共有が必要です。

   現時点で民主党のM&Aを失敗と位置づけるなら、その原因はビジョン共有において「政策実現」よりも「政権奪取」という短期命題を上位に置いたことにあるでしょう。それによって実現した路線変更も多々あったものの、政権奪取を果たした後には、政策的ビジョンの不一致が一気に表面化したのです。

   国民生活向上に向け、同じビジョンで結ばれた政治集団同士が合体するなら、国民にとって歓迎すべき行動ですし、M&Aの「長期的成功のポイント」にも合致します。

   一方で、短期的な党利党略を追求し、あるいは現職政治家さえなんとか再選すればいいというM&Aは、失敗の確率が高いうえに、国民に貴重な時間を浪費させ、何の利益ももたらさないことになってしまうのです。

国民とマスコミが「正しいデューデリジェンス」をすべき

   55年体制の崩壊以降、「政党M&A」の歴史とも言えるほどの離合集散が繰り返されてきました。現政権の民主党も、結党時は旧民主党、民政党、新党友愛らの合併によって現民主党が結成され、さらに自由党の吸収を経て3年前に政権を奪取し、今に至っている訳です。

   ところがここに来て、旧自由党の小沢一郎一派が「国民の生活が第一」を結成して民主党を脱退。残った議員の一部も、大阪維新の会に移りたい姿勢がありありです。政権奪取こそしたものの期待された実績を上げる前に、民主党は著しい内部分裂状態に陥っています。

   企業がM&Aをする前には、相手の会社の中身を精査する「デューデリジェンス」という作業をします。政党M&Aの場合、この作業は基本的に各政党が戦略的に考えることですが、彼らを当選させた国民の意思が十分に反映されてしかるべきでしょう。

   大阪維新の会と手を組みたがっている政党は、果たしてビジョン共有ができているのか。それはどんなビジョンなのか。単に議席数を増やし、国会勢力拡大だけを狙った短期的利益追求型ではないのか。こういった項目が、デューデリジェンスの対象となるわけです。

   我々は前回の失敗を踏まえて、いまどきの「モノ言う株主」と同じ姿勢で、正しいデューデリジェンス(政党の批判的検証と投票行動)を行う必要があります。

   マスコミも、権力闘争のために離合集散を繰り返す議員たちをあおって視聴率争いをするのではなく、国民の視点で確固たる政策を掲げ、結束して長期的に粘り強く闘う勢力を形成するような報道をしてもらいたいものです。(大関暁夫)