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お金は優しさを作る 人はお金がないと優しくなれない

   コールセンターに電話をしたけど、なかなか電話がつながらない。いつかけても「ただいま電話が込み合っております…」というアナウンスが流れて延々と待たされる。こんな経験をしたことはないでしょうか?

   電話がつながらないと、当然お客さまは怒ります。それがクレームの電話だったりすると、待ち時間に比例して怒りのボルテージはどんどん上がります。電話がつながった瞬間に「いつまで待たせるんだ、この野郎!!」と怒鳴りつけられることも珍しくありません。

爆発する怒り、響く罵声「いつまで待たせるんだ!」

「どんなにいいお客さまでも、お金がなくなると人が変わるの」(イラスト:N本)
「どんなにいいお客さまでも、お金がなくなると人が変わるの」(イラスト:N本)

   ではなぜコールセンターには、電話がなかなかつながらないのでしょうか。それはコールセンターの中には最初から応答率(お客様が電話をかけてつながる確率)を70%前後に設定しているところが多くあるからです。

   70%の応答率は、コールセンターでマネジメントを行う上で理想的な数字とされているのですが、10人が電話をかけたら7人がつながり、3人は待たされる仕様に最初からなっているのです。

   ただ、これは一日を通しての平均値なので、お昼や夕方の問い合わせの多い時間帯は、応答率が40%位に下がってしまうこともあります。

「いつまで待たせるんだ!」

と怒りが爆発しているお客さまの電話を収めて、やっとことで次の電話を取ると、また「遅いんだよ!いつまで待たせるんだ!」と同じセリフで怒鳴られるということも珍しくありません。

   そんな厳しいコールセンターの中でも、督促を行うコールセンターはさらにクレームが多いことで定評があります。私の友人の働く消費者金融では、会社に寄せられるクレームの3割強が督促部門で起こっており、全部門で断トツのトップなんだそうです。普段働いているとマヒしてしまいますが、こう言われると改めてシビアな部署なんだなぁと思い知らされます。

「今日も怒鳴られちゃいました。電話がつながらないとはいえ、なんでこんなに督促はクレームが多いんでしょうねぇ……」

   ある日、グチり半分でそんなことを先輩に聞いてみると、先輩はボソリとつぶやきました。

「人間、お金がないと優しくなれないのよ」

「いいお客さまでも、お金がなくなると人が変わる」

   督促は今、ほとんどの会社がコールセンターで一括して行っていますが、以前は支店で他の営業や審査といった業務の中の一つとして行われていました。

   私は延滞したお客さまとしか接したことはありませんが、支店を経験している先輩は、一人のお客さまがカードを申し込みに来て、審査をして融資をして延滞をする、その過程をずっと見続けていたのです。

「どんなにいいお客さまでも、お金がなくなると人が変わるの」
「そ……、そうなんですか……」

   確かに「借金がある」ということは、とにかくストレスフルな状態です。そんな状態でしつこく督促の電話がかかってきたら、電話口のオペレーターを怒鳴りつけたくなるのも仕方ないのかもしれません。

「支店にいた時に、お金を借りに来る時に必ず女子社員にケーキを持ってきてくれる優しいお兄さんがいたんだけど、途中で仕事がうまくいかなくなったみたいで、最後は私たちを怒鳴りつけるようになっちゃったの。お金は人を変えちゃうのよね」

   先輩は遠い目をして言いました。世の中、お金より大事なものもあるのかもしれませんが、やはり人間優しくなるためにはお金が必要なんだなぁと、この業界にいると痛切に感じてしまうのです。

   会社に決められた応答率や、お客さまの心理状態のせいで、オペレーターが悪くなくても怒鳴られることが多くあるこの仕事ですが、督促を始めて随分と強くしてもらった気がします。人間修業には事欠かないお仕事だなぁ、と思いつつ、私は今日もコールセンターで怒鳴られながら督促業務を行っています。(N本=えぬもと)